学生によるサイエンスコミュニケーション

三人集まれば・・・

SMALL TALK about SCIENCE

私は後期選択講義である「地域保健薬学概論」において、国際保健における問題として、顧みられない病気(Drugs for Neglected Diseases:NTDs)に関する話を聞く機会がありました。NTDsとはWHO(世界保健機関)が「人類の中で制圧しなければならない熱帯病」と定義している18の疾患のことを指します。NTDsは世界149の国と地域で蔓延し、感染者数は約10 億人にものぼり、その半数が子供であるといった深刻な社会問題です。NTDsの治療が困難な理由として、患者の多くが存在する国では、貧困や紛争による劣悪な衛生環境ならびに医薬品開発や供給に手が回らないことが挙げられます。私はこの講義を受けるまで、人類にとって必要とされる医薬品は、誰かが必ず開発・供給していると漠然と考えていました。しかし、それは誤りであり、本講義を通じて「誰かが解決してくれる」のを待つのではなく、「私に何が出来るだろうか?」と考えるきっかけを得ることができました。

COVID-19の感染拡大に伴い、ワクチンや治療薬への世間の関心が急激に高まったように感じます。しかし私達は、“ワクチン開発とその効果”や“既存薬の有効性”というニュースには反応しますが、その内容、つまり実験や研究の過程にまでは目を向けていないのではないでしょうか。また、多くの人が困りながらも、有効なワクチンや治療薬が開発されるのをただ待っているだけなのではないでしょうか。

このような問いかけをしながらも私も待っている側の人間です。もともと調剤薬局の薬剤師に憧れて、薬剤師を目指すようになりました。その結果、薬剤師として開発や研究に携わる道もあるのだと具体的に意識したのは、恥ずかしいことに大学に入学してからなのです。しかし、みんなが困っていることはみんなで解決するべきであり、複数の人がいればそれだけ複数の視点を持つことが出来ます。三人集まれば文殊の知恵という言葉があるように、この複数の視野こそ大きな強みとなり得るのではないでしょうか。例えば、JAXAが13 年越しの宇宙飛行士募集で学歴を不問としたことは、ある一定の試験を合格しなければならないとはいえ、複数の視点、多様性を持たせるうえでの選択だったのではないかと考えます。

これらのことは主に学生サイエンスコミュニケーターの活動を通して、強く思うようになりました。実験の準備をする段階で、先生方や他の学生サイエンスコミュニケーターと意見を交わし、意見の多様性の重要性を感じました。また、泥電池の実験を通してSDGsをより身近に感じました。このことにより、みんなで作り上げる持続可能な社会は地球上にいる限り、全人類の課題であると思うようになりました。また、薬の分解の実験やその他の実験で、中学生・高校生と関わるうちに、何でもできると思って思考・仮説を立て様々な場合を考慮して物事に取り組んだ方がエネルギーは大きく、可能性も広がるのではないかと考えるようになりました。これらの思いと経験を大切にして、サイエンティストとして世の中に貢献できるようなことをしていけたらいいなと思っています。