COVID-19

東薬とコロナと私

今野 翔

新型コロナウイルスが発生してから早8ヶ月が過ぎ、世界中で感染者は1500万人を超えた。新しい生活様式に戸惑いを感じつつ、慣れから生じる第二波やウイルスとの出口の見えない戦いに社会全体が疲弊してきているように感じる。ワクチンや特効薬の開発は決して楽観視できるような状況になく、感染者が増え続ける日々に多くの人が憂慮していることと思う。

私は薬学部6年制の一期生として東京薬科大学に入学し、薬品化学教室の門を叩いた。卒論研究では林良雄教授の指導のもと、2002年に発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)の治療薬開発に携わった。当時、東薬において同テーマは立ち上げる段階だった。その分苦労も多かったが、一から研究に関わったため思い入れ深いテーマである。その後、他大学の大学院に進学したので本研究に関わったのは3年間のみだったが、有望な治療候補化合物をいくつか見出すことができた。しかし、SARSはすでに制圧宣言が出されていたことや10年近く再興しなかったことから、過去の感染症とみなされる風潮が強く、社会の関心の減少と共に研究も収束してしまった。その後コロナウイルスが引き起こす中等呼吸器症候群(MERS)が発生したが、感染者が多くないためそれほど問題視はされなかった。今思えば、「コロナウイルス感染症は再興する」という布石は十分にあったのだろう。

一方、博士号を取得した私は、カリフォルニア大学サンディエゴ校でポスドクをしていた。全く違う研究をしていたが、昨年10月に林先生から声をかけて頂き、教員として東薬に戻ることを決めた。帰国準備をしていた矢先、新型コロナウイルスが発生し、世界的なパンデミックへと発展した。結果的に現在は、過去に自分で開発した化合物を基に新型コロナウイルス感染症に対する医薬品開発に尽力している。Fateかdestinyか、二度目のコロナウイルス研究の立ち上げである。

今回の新型コロナウイルスはSARS-CoVとゲノム相同性が高いことから、SARS-CoV-2と名づけられた。世界中が凄まじい勢いで繰り広げている新型コロナウイルスの基礎研究が進むに連れ、前回より明らかにパワーアップしていることがわかってきている。敵は予想以上に精巧に進化しており、かなり手強いだろう。しかし、私自身卒業後8年の時を経て、研究者として知識・技術共にパワーアップしてきた。しかも今回は現実に直面している喫緊の課題であり、学部時代以上のモチベーションで研究に臨んでいる。東薬でのコロナと私の第二ラウンド、知恵と体力を絞り絶対に打ち克ちたい。