科学とは、多くの観察と観測、実験結果に支えられた、変わり続ける知識の体系である。例えば自然科学には、物理、化学、地学、生物学など様々な分野が含まれる。これらの分野の知識の体系が自然科学である。科学とは何か、本稿では生命の起源を例に紹介する。
体系
体系というのは何か。例えば物理学は、力学、電磁気学、量子力学、統計力学、宇宙論などの分野がある。それぞれの分野はそれぞれの体系をもっている。例えば力学では、質量や力などの物理的変数の概念と、それらをつなぐ理論や公式で形作られている。生物学の場合に公式は無いが、遺伝子やタンパク質、細胞、組織、個体、集団など、多くの概念と知識で支えられている。大学や大学院の教科書にはこうした知識の体系が解説されている。それぞれの分野の整理された知識の総体が体系である。
何か新しい発見があった場合でも、その発見が既にある体系と整合的である必要がある。例えば生命の誕生を考えるとすると、生命の誕生の過程がこれまでの科学とどのようにつじつまがあうのか、あるいは合わないのかが問題となる。例えば、生物学でもっとも重要なことは遺伝の仕組みなので、遺伝の仕組みがどの様に誕生したかが解ると、生物学とつじつまがあってくる。
観察と観測、実験
科学の体系を支えるのが、観察と観測、実験である。科学の体系は観察と観測、実験によって確かめられている。何か新しい観察結果、観測結果あるいは実験結果が得られると、何かが解ることになる。
例えば、生命の起源の一つの仮説「RNAワールド」で遺伝の仕組みがどの様に誕生したかを調べる為、RNAによってRNAが複製できるかどうかという実験が行われた。その結果、200程の単量体が繋がったRNAの鎖はRNAの鋳型を複製できることが解った。
実験方法
ある実験結果があったとしても、その方法によって解釈が変わってしまうこともある。観察、観測あるいは実験結果の解釈をする上で重要なのが、観察、観測あるいは実験の方法である。例えば実験が、どの様な材料を用いて、どのような器具を用いて、どの様に行われたのか、というのが実験方法である。観察や観測であっても、やはりどの様な道具を用いて、いつどの様に何を観察あるいは観測したのかが記載される。
RNA複製実験でも、どの様なRNA鎖を用いてどの様な条件で反応を行って、どの様に複製されたことを確認したかということが記載されている。
確かなことと確かでないことの狭間
観察、観測あるいは実験の結果が得られると、その結果を解釈して、ある可能性が支持されたり、支持されなかったりする。しかし、何か一つの結果がでたことで、あることが決まってしまうことはまずない。多くの結果が得られたあとで、次第に何かが確からしくなっていく。つまり、研究の最先端では、確かなこととまだあまり確かでないことの狭間が存在する。
研究者によって結果の解釈の仕方が異なることも良くある。例えば、最先端の実験に関しては、同じ結果に対して、異なる解釈がありうる。観察、観測あるいは実験結果から、ある事柄が確かめられたと考える研究者もいれば、まだ不十分であると考える研究者もでてくる。
RNAワールドに関して言えば、RNA鎖がRNA鎖を複製できるということはRNAワールドの一番肝心のことが確かめられたと解釈する研究者もいる。他方で、RNA鎖の複製が起きたとしても、複製の材料となるRNA単量体がどの様に初期地球でできたか不明だと考える研究者もいる。
研究者の理解は変わる
こうした、まだよくわからない点に関して、研究者は新たに実験や観察、観測をすすめる。科学者の間で異なった理解も、新しい観察、観測あるいは実験結果がでることで、どちらか一方を支持する研究者が増え、やがて新しい体系の一部となっていく。こうして、科学の体系が進化していく。つまり、科学の体系は何か固定しているものでは無く、常に変わり続けている。これが科学である。
(8/12 本連載は12回連続となります。)