ブックガイド

「最後の医者は桜を⾒上げて君を想う」「最後の医者は⾬上がりの空に君を願う(上・下)」

【作者】二宮 敦人
【出版社】TOブックス

今回紹介する本は「最後の医者は桜を見上げて君を想う」と「最後の医者は雨上がりの空 に君を願う(上・下)」です。視点が、医者と患者に相互に変わりながら、現在の医療や死について描かれている医療小説です。

今日の医療において、治療技術の発達や患者の健康や予防に対する関心の増加により、日常的に「生きる」ということを当たり前として過ごしている方が多いのではないでしょうか。

しかし、どんなに医療が進化を遂げたとしても、死は誰に対しても、どのような形であったとしても平等に訪れるものです。皆さんは自分の「命」や「死」について深く考えたことはありますか?どう生きていきたいかを考えるだけに焦点を当ててしまい、「どう死にたいのか」まで考える機会は限りなく少ないのではないでしょうか?

この本を読むことで、医者と患者というそれぞれの立場からの死への向き合い方の違い、正解のない生き方と死に方に対して、どう向き合って行くべきなのかを新たな視点から考えることができます。さらに、そこからどのような人生を歩んでいきたいのかを、非常に深く考えさせられる作品となっています。

この作品は、章ごとに患者の死までの経緯が描かれています。主な登場人物としては、最後まで治療を諦めない福原雅和と、患者に死を選ばせることから「死神」と呼ばれている桐子修司という正反対の考えを持った2人の医者が、お互いの意見をぶつけ合います。

私は医療ドラマや医療小説が好きで様々な作品に触れていますが、ここまで死へ向かう患者や医師の描写がリアルで、それがどれだけ難しいものなのかを感じさせるようなものはこれが初めてでした。

医者はなんとしても手を尽くして、命の火を灯し続けるために対処しようとします。しかし、ケースによっては根本的な解決にならず、苦痛を和らげるような対症療法を続けることになってしまうこともあります。

 桐子は「僕たち医者は患者を救おうとするあまり、時として病気との戦いを強いるのです。最後まで、ありとあらゆる方法を使って死から遠ざけようとする。患者の家族も、それを望む。だけどそれは、果たして患者が本当に望んでいた生でしょうか?医者や家族の自己満足ではないか?」と述べています。

 このように桐子は、単に患者に死を強要しているわけではなく、患者が思う死についての考えを尊重しています。私は、必ず命が助かると考える福原も、患者の死への思いを優先する桐子も、両者欠けてはいけない視点を持っていると思います。

 この本を読んだことで、感動や奇跡を感じることは非常に困難ですが、これから誰もが体験することになる死についてより深く考えられます。そして、今までとは異なる視座で、自分自身の生き方に対する、重要なことを知るきっかけになるのではないでしょうか。