TAMAリケジョ育成プログラム

ロールモデル集1-① 薬を体内の必要な場所にどうやって届けるか、新しい技術を開発して遺伝子治療に貢献したい

髙橋 葉子さん

なぜ理系に進もうと思ったのですか?

小さい頃から国語よりも算数の方が好きでした。主人公の気持ちを読み解くよりも、式や図から導く答えの方が明確で、クイズやパズルのように思えたからです。中学・高校では地理や歴史にも興味がありましたが、やはり数学の方が好きで、理科系科目に関しては実験が楽しかった記憶があります。

そのため、深く考えることなく早々に理系進学を決めていましたが、大学受験では、それなりに強い思いを持って受けた学部、面白そうかなと比較的軽い気持ちで受けた学部など、複数の学部を受験しました。いろいろ興味があったとも言えますが、絞り切れなかったのだと思います。その中で薬学部は、薬剤師職よりも薬を創る研究職に興味があり、受験・入学しました。

大学時代のことを教えてください。

高校までと比較して各段にレベルの上がった講義についていくので精一杯でしたが、勉強は試験が近くなってから必死にやり、普段は部活とアルバイトばかりしていました。成績は褒められたものではありませんでしたが、「薬剤学」という講義や実習で薬学部らしさをようやく実感し、薬を創るところに携わりたいという思いを改めて抱くようになりました。大学入学前から抱いていたその思いのきっかけは、近くに大病を患った方がいたり、といったことではなく、ただ自分の手で作ったものが形となって人の役に立てるかもしれないというものでした。

薬学部での講義を通じ、どんなに効果的な成分や化合物でも、それが目的の組織に十分な量届かなければ効果を発揮することは難しく、それを克服するために、薬を体内の必要な組織・細胞まで効率よく届けるドラッグデリバリーシステム(DDS)という技術があることを学びました。

4年生から配属された研究室や大学院でDDS研究に携わり始め、実験はもちろん、関連内容を勉強し新たな知識を得ることも非常に楽しく感じました。また、尊敬できる先生方、先輩方、同期、後輩に恵まれ、研究の楽しさと大変さを実感したことで、研究職への興味・関心はますます強くなったように思います。

どんなお仕事をされているのでしょう?

研究室配属を決める頃には、企業での研究職に就きたいという考えがあったため、当然のように大学院進学も志望しました。就職活動をする際には、企業への就職と博士課程への進学を比較して考えましたが、あくまでも面接対策としてであり、博士課程への進学、ましてやアカデミア研究者となる選択肢は当時全く頭にはありませんでした。

それでも就職活動後、有難くも現在の所属教室の当時の教授よりお声がけいただき、興味のより高まっていた自身の研究に引き続き携わることができるという運とタイミングの良さに感謝して、アカデミア研究者としての道に進む決断をしました。

現在は大学職員として研究と教育に従事しています。講義や実習で学生教育に携わっているほか、自身の研究について、研究室に所属する学部生・大学院生に指導しながら一緒に進めています。専門は、遺伝子治療薬や核酸医薬のためのDDSです。遺伝子や核酸は、これまで治療法のなかった疾患に対する医薬品としての効果が期待されているものの、目的とする細胞内へ届けるところが大きな課題とされています。

私たちの研究室では、超音波エネルギーと細胞膜類似成分からなる泡状の粒子(ナノバブル)を利用した遺伝子・核酸デリバリーによる治療法の開発を進めています。ナノバブルは体内の臓器などをイメージングできる超音波造影剤としても活用できることから、治療も診断も行える革新的DDSの実現が期待されます。最近では、体内でも特に薬を届けることが難しいとされる脳へのDDS開発を行っており、脳腫瘍や脳梗塞、パーキンソン病やアルツハイマー病などの難治性中枢神経疾患の診断治療法への応用を目指しています。

仕事の「ここがおもしろい!」を教えてください。

研究は、思うようにいかないことの方が多く、大変に感じることはもちろんありますが、その分だけ、教科書に答えのないことを自らの手で明らかにしていく達成感は大きく、自分達が開発したものが新たなDDSとして遺伝子治療に貢献し得るという期待感がモチベーションとなっています。企業のように、すぐに形として人の手に渡るものではないかもしれませんが、その分制約が少なく自由な発想で研究を進めることができる点が魅力だと思います。

また、薬剤師免許の取得を大きな目標に掲げる学生達が、講義や研究を通じて少しでもDDSに興味を持ってくれると嬉しく思います。そしてこれまで知らないことの多かった学生達が、興味を持って自ら調べ、考え、苦労しながら共に実験を進めていくのは、とてもやりがいのある共同作業です。

仕事と家庭との両立はどうでしょう?

現在、5歳と1歳の子育て中ですが、とても両立と言えたレベルではなく、職場の先生方や学生達、家族の理解があって何とか成り立っているといったところです。職場でも家庭でも、自身の働きぶりとしては物足りないところだらけですが、これが自分の精一杯であり、仕事と家庭それぞれが気分転換となっているからこそ、何とかなっているとも思います。

文系理系に関わらず、そして結婚や出産をする・しないに関わらず、働く女性はライフイベントの決断や周囲の目など、男性とは異なる点で制約を感じることは多いかもしれません。ただそれらに対して温かい気遣いを感じることや支援制度も多いですので、それらに甘え過ぎることなく頑張っていけたらと思っています。

中高生に「理系のススメ」をお願いします。

大学受験の時には、将来のこともいろいろと悩み、考えて進路を決めたはずですが、実際にはその当時は思いもしなかった職に就いています。皆さんも、これから先の転換点では、想像もしていない、あるいはまだ知らない選択肢も出てくると思います。ぶれない意志というのも素晴らしいですが、これから得られる経験や人とのご縁から、その都度より興味のある方へ素直に従うというのもよいと思います。どんな仕事でも大変なことは必ずありますが、自分の意志・興味で選択していれば、やりがいを見つけてより頑張ることもできると思います。理系科目全て、あるいは一部に苦手意識がある方もいると思いますが、その勉強の先にどんなことができる選択肢が増えるのか、興味を広げて考えてもらえたら嬉しく思います。