最近、スズメを見かけることが減ったように感じます。実際に減ったのでしょうか? 10月に報告された「モニタリングサイト1000」の里地調査で、スズメの減少が示されました(参考1)。2008〜22年の15年間で,スズメは1年あたり3.6%減少しました。
モニタリングサイト1000(重要生態系監視地域モニタリング推進事業)は、環境省と日本自然保護協会によるものです。この事業では、全国の様々なタイプの生態系に1000ヵ所程度の調査サイトを設置し、長期(100年以上)継続してモニタリングします。その報告書によると、在来植物の記録種数はやや減少の傾向にあり、外来植物は経年的に増加しているとのことです。確かに、道端などの身近な草花を見ると、外来種が多くあります。
国立環境研究所の侵入生物データベース(参考2)には、日頃よく見かける草花や木が、法的扱いのあるものや注意を要する侵入生物として数多くリストされています。和名のものを、いくつか取り上げてみましょう。
侵入植物〜セイタカアワダチソウ
10〜11月、草地や河川敷で、草丈の高い黄色い花をよく見ます(写真①)。セイタカアワダチソウ(背高泡立草)です。原産は北アメリカで、1900年頃(明治末期)に観賞用や蜜源植物として持ち込まれました(参考2a)。昭和初期に野生化が確認され、戦後、特に高度経済成長期の頃、西日本から全国に分布が拡大しました。
アレロパシーとは、植物が化学物質を放出することを介して他の生物に何らかの作用を及ぼす現象です。セイタカアワダチソウは、根や地下茎からアレロパシー物質のポリアセチレンを分泌して種子の発芽を抑制します。そのため、この植物が繁茂する場所では、新たな植物の侵入が困難になります(参考3)。
侵入植物〜セイヨウタンポポ
タンポポ(蒲公英)は春のイメージですが、夏や秋もよく見かけます。これには外来種が関係しています(写真②)。
日本には、在来種タンポポが古くから自生しています。鼓草など、さまざまな呼び名がありましたが、万葉集などの古代の歌集には取り上げられていないようです。当時は、あまり身近ではなかったのかもしれません。しかし、時代を下ると俳句などに見ることができます。例えば1810年の小林一茶の俳句集に「たんぽぽも あたまそりたる せっくかな」という句があります。タンポポという呼び名は、江戸時代に生じたようです。語源は諸説ありますが、一説では、鼓を打つ音タン・ポン・ポンになぞらえ、鼓草をタンポポとよぶようになったということです。この呼び名ならば、幼い子供もすぐに覚えるでしょう。
最もよく見られる外来種は、セイヨウタンポポです。ヨーロッパ原産ですが、北アメリカから導入され、1904年に札幌で流入が確認されています(参考2b)。その後、全国に広がりました。セイヨウタンポポは生育可能な場所が多く、道端などでも見られます。また、他のタンポポ類と雑種をつくり、日本で見られるものの8割以上は在来種との雑種とのことです。在来タンポポの花期は春ですが、セイヨウタンポポは春から秋に渡ります。夏や秋に見かけるタンポポのほとんどは、こうした帰化種または雑種です。
侵入植物〜ヒメジョオンとハルジオン
セイタカアワダチソウもセイヨウタンポポも、「日本の侵略的外来種ワースト100」にリストされています。これは、日本生態学会が、生態系や人間活動への影響が大きい外来種を選定したものです。維管束植物としては26種類がリストされており、子供の頃から馴染みのあるヒメジョオン(姫女苑)やハルジオン(春紫苑)も含まれます。
ヒメジョオンとハルジオンは、たいへんよく似ています(写真③,④)。名前もジョオンかジオンか紛らわしいですが、漢字名を見れば覚えやすいかもしれません。ハルジオンの花は5〜7月頃、ヒメジョオンは6〜10月頃に咲きます。
どちらも北アメリカ原産で、日本に渡来したのは、ヒメジョオンは江戸時代末の1865年頃、ハルジオンは1920年頃です(参考2c,d)。観賞用として持ち込まれましたが、早々に雑草化しました。いずれも、在来植物、畑作物、牧草と競合し、アレロパシー作用をもちます。ハルジオンは、除草剤(パラコート)に耐性のある個体が出現して全国へ分布が拡大しました。
侵入植物オシロイバナ
オシロイバナ(白粉花)は、野生化したものを道端や線路沿いなどでよく見かけます(写真⑤)。赤・黄・白や複色など、鮮やかな色で目立ちます。「日本の侵略的外来種ワースト100」には含まれませんが、在来植物,畑作物,牧草と競合します(参考2e)。
オシロイバナの原産地は南アメリカです。スペイン人によってヨーロッパに持ち込まれ、その後、世界中に広まりました。日本には、江戸時代初期(17世紀)に渡来し、観賞用として栽培されました。黒い種子を割ると白い粉質の胚乳があり、それがおしろいの粉のようなので、オシロイバナとよばれます。夕方に咲くので、ユウゲショウ(夕化粧)という別名もありますが、ユウゲショウという植物は、オシロイバナ科とは別にアカバナ科にもあります(写真⑥)。こちらは濃いピンクの小さな花ですが、オシロイバナと同様に原産地は南アメリカで、道端や草地でよく見かけます。
他にも、北アメリカ原産のメマツヨイグサ(目待宵草、写真⑦)やオオブタクサ(大豚草、写真⑧)などを、道端や草地、河川敷でよく見かけます。これらは、在来種や畑作物,牧草などと競合し、アレロパシー作用をもつことが知られています(参考2f,g)。オオブタクサは、「日本の侵略的外来種ワースト100」に含まれます。
外来植物の多くは、観賞用や農作物・牧草などとして持ち込まれたものです。適応力や繁殖力が高いものが、管理外に侵出して野生化しました。
街路樹に見る外来種
都市化が進むとともに街路樹が整備されてきましたが、街路樹にも外来種が見られます。東京都の街路樹の種別の本数は、2024年4月1日現在で1位がハナミズキ(花水木、60,838本)、2位は僅差でイチョウ(銀杏、59,137本)、3位がサクラ(桜、42,798本)です(参考4)。サクラは1万年以上前の地層から自然木が出土しているように有史以前からありますが(参考5)、イチョウは中世、ハナミズキは20世紀に海外から渡来しました。
イチョウは中国原産で、一説では13〜14世紀頃に朝鮮半島を経て日本に入ったと推測されています(参考6)。ハナミズキは、1912年にワシントンD.C.に贈ったサクラの返礼として贈られた木として知られます。
在来種と外来種が彩る四季
種々の海外起源の植物が国内に入っていますが、渡来してから長い歴史をもち、すっかり定着しているものもあります。ウメの原産地は中国で、弥生時代(紀元前3世紀〜紀元3世紀)に朝鮮半島を経て入った、あるいは、奈良時代に遣唐使が持ち込んだなどの説があります。アサガオ(朝顔)は、奈良時代に遣唐使が中国から持ち帰ったとされます。ウメもアサガオも、日本の風情や美、文化に欠かせない植物です。
外来植物は、在来植物とともに日本の四季を彩っています。古代に渡来したウメの開花が早春を知らせ、サクラが本格的な春の訪れを告げた後、暖かな陽光のもと、渡来して100年余りのハナミズキが街を彩ります。何だか春が待ち遠しくなりました。この稿を書いている今はまだ、イチョウがようやく黄色味を増してきたところです。ハナミズキは、赤い実を実らせて紅葉し、冬芽をつけて来春に備えた冬支度をしています(写真⑨)。
【参考】
1. 環境省自然環境局自然環境計画課生物多様性センター、モニタリングサイト1000里地調査 2005-2022年度とりまとめ報告書、2024年10月1日.
2. 国立研究開発法人 国立環境研究所、侵入生物データベース、(a) https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/80600.html (b) 同上/80640.html (c) 同上/80630.html (d) 同上/80530.html (e) 同上/80020.html (f) 同上/80240.html (g) 同上/80410.html
3. 岡山理科大学、植物雑学事典、https://www1.ous.ac.jp/garden/hada/plantsdic/angiospermae/dicotyledoneae/sympetalae/compositae/seitakaawadachi/seitakaawadachi5.htm
4. 東京都建設局、街路樹のデータ(2024年4月1日現在)、https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/jigyo/park/ryokuka/hyoushi/hyoushi5/index.html
5. 長野県立歴史館、歴史館ブログ、木器保存処理室より13、2020年3月16日更新、https://www.npmh.net/blog/2015/04/id-353.php
6. 堀 輝三、イチョウの伝来は何時か…古典資料からの考察…、Plant Morphology 13, 31-40 (2001)