1月1日は、どうして“この日”なのだろう? 子供のときに思ったことです。どのようにして決まったのでしょうか。人類は古くから季節の移ろいを意識していましたが、現在の暦に至るまでには紆余曲折がありました。また、“時”をめぐって、今も議論があります。
日本の旧暦と新暦
新年を迎えると初春や新春、迎春といった言葉が聞かれますが、寒さが本格化するのはその後です。この季節感のズレは、旧暦から新暦へ移行したことによります。
暦には、地域や文化ごとにさまざまな種類があります。古代エジプトではナイル川の氾濫時期を予測するため、太陽の動きを基にした太陽暦が使用されていました。一方、メソポタミアや中国では、月の満ち欠けに基づく太陰暦が主に用いられていました。現在、日本を含む多くの国で標準的に使用されている暦は、グレゴリオ暦という太陽暦です。これは、16世紀にローマ教皇グレゴリウス13世の命によって制定されたものです。日本が新暦としてグレゴリオ暦を導入したのは明治6年(1873)で、それ以前は太陰太陽暦を使用していました。
太陰太陽暦は、太陰暦の12ヶ月に、太陽の動きを参考にして閏月を加えた暦です。「閏(うるう)」とは、暦と季節のズレを調節するために、日数や月数を平年より多くすることをいいます。月の満ち欠けの周期は約29.5日なので、太陰暦の12ヶ月は354日となります。これを1年とすると、約365日の太陽年(太陽が黄道上の春分点を通過する周期)との間にズレが生じます。太陰太陽暦では、閏月を設けてこのズレを補正します。
暦は、中国から朝鮮半島を経て日本に伝来しました。大和朝廷は、暦の作成に必要な暦法や天文地理を学ぶために百済から僧を招き、604年に日本最初の暦が作成されたと伝えられています(参考1)。江戸時代に入ると、天文学や和算が大きく進歩し、数度の改暦が行われました。現在の暦へ移行する直前に使用されていた旧暦は、1844年に制定された天保暦です。この暦は、江戸幕府天文方が西洋天文学を取り入れ、和算を用いて作成した精度の高いものでした。
旧暦の年始
旧暦の1月は、二十四節気の雨水(うすい;新暦の2月19日頃)を含む月として定められます。二十四節気は、四季や気候の変化を基に一年を24等分したものです(図)。紀元前4世紀に中国で成立し、日本に伝わりました。天保暦以降の二十四節気は、天球上の太陽の通り道である黄道を、春分を起点として15度間隔で24等分することで決められています。二十四節気は太陽の動きに基づくため、季節を知るための指標として有用でした。雨水は、春分の約1ヶ月前です。
旧暦では新月の日(朔日)を月初めとするので、雨水の直前の朔日が元日となります。つまり、立春(2月4日頃)を挟む大寒(1月21日頃)と雨水の間に元日が位置することになり、春の訪れを年始とした背景がうかがえます。初春や迎春といった表現も、この時期ならば季節感と合います。2025年の旧暦の元日は1月29日です。
グレゴリオ暦成立の経緯
現在の暦は、起源をたどるとユリウス暦、さらにローマ暦に遡ります。最初のローマ暦は、紀元前753年に古代ローマで採用されたロムルス暦です。この暦は、今でいう3月から12月までの10か月で構成されていました。その長さは304日で、農耕が行われない冬季に日付が割り当てられていない期間がありました(参考2)。
紀元前713年、ロムルス暦からヌマ暦への改暦が行われ、現在の1月と2月に相当する二つの月が追加されました。ヌマ暦の平年は355日で、季節とのズレを調整するために閏月が設けられました。しかし、十分に調整されず、ユリウス・カエサルの時代にはズレが3ヶ月にも達していました(参考3)。
そこでカエサルは、紀元前46年に90日の閏日を追加してズレを解消し、翌年にヌマ暦から太陽暦であるユリウス暦への改暦を実施しました。ユリウス暦は平年を365日とし、4年に1度の閏日を設けることで1年の平均を365.25日としました。各月の日数は現在と同じです。ローマ暦で3月だった年始は、ユリウス暦の制定時には現在の1月に改められていました。年始の変更には、軍事や政策的な理由があったと考えられています。また、Januaryの語源であるローマ神話のヤヌスが「物事の始まりの神」であることも、背景として挙げられます。
ユリウス暦の1年は平均365.25日ですが、実際の太陽年は約365.2422日です。この差が長い年月をかけて蓄積すると、暦と季節の間に再びズレが生じるようになりました。キリスト教で重要とされる復活祭は、「春分かそれ以後の満月の後にくる最初の日曜日」と325年に定められました(参考4)。当時、教会では「春分」を3月21日に固定していましたが、16世紀後半には天文学的な春分が3月11日頃となりました。
そこで、3月21日を再び天文学的な春分に近づけるため、ユリウス暦の1582年10月4日(木)の翌日をグレゴリオ暦の10月15日(金)とする改暦が行われました。グレゴリオ暦では、ユリウス暦と同様に4年に1回閏日を設けますが、400年に3回は閏日を設けないことで、1年の平均日数をより太陽年に近い365.2425日としました。現在の暦は、このような経緯で確立されました。春分の日は、通常3月20日または21日です。
1秒をめぐって
新年を迎える瞬間、世界の各地でカウントダウンイベントが行われます。時間計測の技術が進歩すると、1日や1秒の長さも議論の対象になりました。
1日の長さは、太陽が真南に位置する南中時刻から次の南中時刻までの時間と定義されます(参考2)。1日を86400秒とすることにより、1秒の長さが決まります。ところが、水晶振動子を用いた高精度の時計が発達すると、1日の長さに1~2ミリ秒程度の変動があることがわかりました。1秒の長さにも変動があることになり、基本単位として問題です。
そこで1956年、変動幅を小さくするため、地球の自転周期に基づいていた1秒の定義が、暦年(地球が太陽を一周する平均的な時間)の31,556,925.9747分の1に変更されました。さらに1967年、セシウム原子時計を用いた定義に改められました。1秒は、セシウム133原子の基底状態の二つの超微細構造準位の遷移に対応する放射の周期の91億9263万1770倍の継続時間とされ、現在もこの定義が用いられています。
時計の精度は、GPS衛星を使った位置測定の技術など、さまざまな分野で重要です。現在もさらに精度の高い時計が研究されており、光格子時計(参考5)のような次世代技術が注目されています。近い将来、これを基にした新たな1秒の定義が採用されるかもしれません。
閏秒
秒の定義が地球の自転に基づかなくなったことで、1日の長さは86400秒よりも平均で約1ミリ秒長くなりました(参考2)。このズレは日々蓄積され、数年で1秒の差になります。この差を補正するために閏秒が挿入されます。最近では、協定世界時UTCの2016年12月31日23時59分59秒の直後(日本標準時JSTの2017年1月1日午前9時の直前)に1秒が追加されました。
一方、地球の自転速度は、潮汐(月と太陽の引力による海面の昇降現象)や地球内部の質量分布の変化、氷河の融解による質量移動などの影響を受けて不規則に変動し、全体的には徐々に遅くなっています(参考6)。そのため、ズレがいつ1秒に達するかを正確に予測するのは難しいのですが、近い将来、閏秒による調整が必要になることが想定されます。
しかし、閏秒の挿入には反対意見も多くあります。例えば、閏秒がシステムの同期やインターネットを含むさまざまな分野での技術運用に混乱をもたらす可能性が指摘されています。そのため、閏秒を継続的に実施するかどうかについての結論は、先送りされています。
暦と時計
太陽の動き、月の満ち欠け、夜空の星座の変化は、いずれも周期的であり、人類はその規則性に古くから気づいていました。文明の発展とともに暦が必要となり、特に農耕が始まると、種まきや収穫の適切な時期を知るために、自然のリズムを正確に把握することが重要となりました。天体の動きは、季節や時刻を知るための極めて有用な指標でした。天文学や時間の計測技術が進歩すると、暦や時刻の精度を維持・向上させることが重要な課題となりました。
現代は、世界がグローバル化し、経済や社会活動が国境を越えて広がっています。このような時代において、共通暦や協定世界時は、国際的な連携や調整を支える基盤として不可欠な存在です。また、精密な時計技術は、宇宙開発や通信技術、金融取引など多岐にわたる分野で重要な役割を果たしています。時間管理の仕組みも、現代社会を支える不可欠な要素です。
参考
1. 国立国会図書館、日本の暦,第一章 暦の歴史、https://www.ndl.go.jp/koyomi/chapter1/s1.html
2. 片山真人、知れば知るほど面白い暦の謎、三笠書房(2022)
3. 中牧弘充、世界をよみとく「暦」の不思議、イースト・プレス(2019)
4. 国立天文台、1月1日はどうやって決まったの? https://www.nao.ac.jp/faq/a0307.html
5. 東京大学、プレスリリース(2024年11月21日)、世界初、装置容量250リットルの小型・堅牢な超高精度光格子時計の開発に成功 ~光格子時計の社会基盤実装へ大きく前進~、https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2024-11-21-001
6. ナショナル・ジオグラフィック、NEWS(2023年2月28日)、「うるう秒」とは何か、なぜ廃止が決まったのか? その後は白紙、https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/24/022700112/