TAMAリケジョ育成プログラム

ロールモデル集1-④ よりよい医薬品を必要とされる患者さんに届ける ― 医療の底上げに製薬サイドから貢献したい

鹿間 さおりさん

なぜ理系に進もうと思ったのですか?

私の場合、理系科目(生物)が好きだったこと、文系科目(古文や世界史)が苦手だったこと、両方がきっかけだと思います。高校に入り、生物の授業が楽しい!面白い!と感じました。メンデル(遺伝学)やパスツール(微生物学)の数々の功績に感銘を受けたことを覚えています。英語も好きだったので文理選択に迷いましたが、周囲の方々に「一番得意な教科・分野を伸ばした方が良い」と勧めてもらったこともあり、高校2年時に理系を選択する決心をしました。文理選択当時は理科の面白さを学生に伝える仕事をしたいと考え、理科の先生を目標としていました。

大学時代のことを教えてください。

大学では理学系の学部に進学しました。大学で学ぶ講義はどれも一歩踏み込んだもので、特に自然科学分野の講義では知識が深まり、世界が広がっていく感覚を楽しく感じました。専門講義の中で学んだ、普段の生活に役立つような理系知識(例えば、ハチミツは微生物汚染の危険があるため乳幼児に与えてはいけない等)は今でも役に立っています。

理系は忙しいと思われがちですが、講義の間にバスケットサークル活動や旅行など大学生らしいことも経験できました。

大学生活を過ごす中で「自主性」も身につけられたと思います。自分で授業を選ぶ、単位取得のペースを決める、生活費をやりくりする、アルバイトをする、などたくさんの初めての自由を経験し、社会に出る下準備ができたと考えています。

公衆衛生学の講義を通じて微生物や感染症に興味が湧き、4年時は微生物の研究室、大学院2年間はウイルス感染症の研究室に所属しました。研究生活では、専門技術や知識に加え、研究に没頭する楽しさを覚えました。楽しいことばかりではなく、自分の未熟さを痛感することも多々ありましたが、おかげで仲間や指導者のありがたさや家族のやさしさなど、たくさんの気付きを得ることができました。大学入学当初は教師職に興味があったのですが、6年間の学びを通じて、くすりを作る製薬会社に興味を持つようになり、企業研究者になりたいという憧れを持つようになりました。

今、どんなお仕事をされているのでしょう?

くすりの候補の品質にかかわる部門に所属し、最適な分析方法を構築する仕事をしています。くすりの「規格」を決めていく業務です。どうすれば患者さんに対してくすりの価値を高められるか考えながら、分析技術と戦略を構築しています。学生時代の専門を活かして微生物の専門家としても従事しており、研究室で実験業務も実施できる環境にいます。

現在の職場に異動する前は、ワクチン開発部門でパンデミックワクチンの備蓄事業サポートや、不活化ウイルスワクチンの分析などを担当していました。

仕事の「ここがおもしろい!」を教えてください。

くすり作りに実験を通じて貢献できることが、理系職ならではの魅力だと思います。自分が直接かかわったくすりの候補が患者さんに投与されることから、品質に対して責任を感じます。

ありきたりかもしれませんが、よりよい医薬品を早く必要とされる患者さんに届けたいという思いで日々の業務に取り組んでいます。

パスツールの言葉「Science knows no country, because knowledge belongs to humanity, and is the torch which illuminates the world」にあるように、科学に国境はありません。現在のタケダの職場では、仕事を通じて得た知見を、多様性に富んだ世界の方々と共有することが出来るのも楽しみの一つです。

また、会社に所属すると、ひとりで働くわけではなく、たくさんの人と協力をしながら目標を実現していくことになります。ひとりでは成しえない大きなゴールをチームで達成することも、私のやる気につながっています。

仕事と家庭との両立はどうでしょう?

保育園に通う子が一人と、配偶者がいます。育休後の職場復帰前は、頑張らなければ!と気を張っていて、空回りしていたかもしれません。仕事と家庭を両立できるか不安でしたが、上司や職場の子育てに対する理解があり、おかげさまで無事職場復帰することができました。企業内託児所などの手厚いサポートもあり、とても恵まれた環境にいると思います。現在は夫が単身赴任中という事もあり、仕事の時間と家庭の時間を切り分けたメリハリのある両立生活を送っています。最近は思い切って保育園の送迎をベビーシッターさんにお願いしたりもしています。

また、働き方改革の推進もあり、現在では在宅勤務とするか、実験のため出社するか、自分で選べる環境にあり、柔軟な働き方ができています。

私の親の世代より、現在の方が子育てや女性の活躍の支援が充実していると感じます。中高生の皆さんが社会人になるころには、さらに社会システムや価値観が変化し、日本における女性の活躍のあり方もよりよい方向へ変わっているのではないかと思います。

中高生に「理系のススメ」をお願いします。

やりたいことが既に理系で決まっている場合、理系の中で苦手科目があったとしても、「好き」を優先して理系選択をした方が良いと思います。私の場合、物理は苦手でしたが、苦手科目があっても何とかなりました。

逆に、文系理系選択で迷う場合はとりあえず理系という選択肢でも良いと私は考えます。なぜなら、理系から文系への就職はよく聞く話ですが、逆は少なく、あとから理系分野でやりたいことを見つけても苦労したり、断念せざるを得なくなるかもしれないからです。

大学の学費、生活費などは、保護者の方に経済的支援を受ける場面が多いと思います(自分でなんとかされる人もいらっしゃると思いますが)。早い時期から周囲の方々に相談し、自分が何に興味があるか、どのようなサポートが必要になるのか、話し合うことが大切だと思います。