TAMAリケジョ育成プログラム

ロールモデル集2-① 化合物の発見、臨床試験から創薬まで、十数年に及ぶ長い道のりを国籍を越えたメンバーと共に歩み続けています

宮本 真紀さん

なぜ理系に進もうと思ったのですか?

子供のころから生物の図鑑を見るのが好きで、生命の不思議に興味がありました。理系か文系かを決める高2の時に有機化学を学び、まだ教科書のレベルではありましたが、薬品を組み合わせて化学反応を用いて目標とする化合物を合成する、ということに興味を持ち、実際の実験をしてみたいと思うようになりました。

その時までは将来のなりたい職業を具体的に考えたことはなかったのですが、漠然と人の生命に役立つような仕事につきたいと考えていたこと、有機化学に興味を持ったこと、また何かと物を作ることが好きだったことから、「薬品会社に入って薬を作り出したい」という希望を持つようになりました。一つの良い薬があれば多くの人の健康に役立つということも創薬を魅力的に感じた理由でした。

大学時代のことを教えてください。

薬剤の合成を目指すのであれば、有機合成の研究室に入るべきと考え理学部化学科に入学しました。その後、学部4年時に希望通り有機化学の研究室へ所属することが叶い、念願の有機合成の実験ができることになりました。

当時としては珍しく、化学科は女性が1/3占めており、所属した研究室の同級生は4人中3人が女性でした。先生や先輩の指導を受けながら研究室では月から土まで、時には夜中まで実験していました。新規の化合物を生み出す合成実験の楽しさに没頭しつつ、実験におけるリスクや、危険物の取扱いなど、実験に取り組む姿勢も学びました。

大学院への進学を決めた理由は、いざ実験を始めてみると物足りない、身についていないと感じたためです。大学院時代は学会等で研究をまとめて口頭発表する機会もいただき、人へ伝えるプレゼンテーションのスキルも必要だということに気づかされました。

今、どんなお仕事をされているのでしょう?

薬学としての知識は皆無だったので不安はありましたが、運よく希望通り薬品会社の合成部門に所属することができました。合成部門では化合物の構造活性相関を基に強い薬理活性を示し、かつ良好な動態的性質を持つ化合物をデザインし合成することに力を注ぎました。

出産を機に動態部門に異動した当初は合成での知識を生かして代謝物構造解析等を経験し、いくつかのプロジェクト(武田では個々のターゲット薬物に対して部門横断的にプロジェクトというチームが形成され、候補薬物創出に向けて開発を進めています)の動態部門担当をさせていただいたことが、現在の自分のキャリア形成にとても役立っていると感じます。

動態部門ではイギリスで働く機会をいただき、英語や文化の違いに四苦八苦しながらも意外と一人で何でもできるという自信となりました。またメンバーの協力を得ながら、ヒト肝臓移植動物を用いた研究を通して薬学博士を2020年に取得することができたのですが、合成から動態への専門分野の変更があった中で学位を取得できたことはとても励みになりました。

現在はニューロサイエンス創薬部門のプロジェクトマネジャーとして複数のプロジェクトの進捗管理に携わっておりますが、合成、動態部門での経験が業務に生かせる点も多いと感じています。現在の業務ではより広い視野、高い視座での思考が要求されることや、海外のメンバーがメインのプロジェクトの担当もあり、業務を通して日々自分の学びとなっています。

仕事の「ここがおもしろい!」を教えてください。

創薬は道のりが長く、なかなか臨床試験に進む化合物を見出すことは難しいのですが、合成部門では担当していた化合物が臨床試験に進むという貴重な経験ができました。また、動態部門に異動して初めて担当したプロジェクトで見出された化合物は現在臨床試験中です。

いずれも初めて人に投与されるという時はここまで来たんだ、という気持ちでとても嬉しかった記憶です。後者の化合物は担当してから12年以上たち、現在Phase 3なのですが、本当に自分の子供のような感覚です。動態部門としても代謝評価やトランスレーショナルリサーチの観点で貢献できる部分が多く、非臨床の実験結果から仮説を立ててヒトの動態を予測し、その予測を基にチームが動いていく、という点も、責任とともにとても働き甲斐を感じました。部門内ももちろん、部門外のメンバーとのチームワークがなければなしえなかったと思います。

仕事と家庭との両立はどうでしょう?

出産を機に合成部門から動態部門へ異動する際も、好きな合成を離れて新たな分野でやっていけるのかといったこともあり非常に悩みました。パートナーや上司、先輩のアドバイスもあり異動を決めましたが、やはり異動した当初は業務内容が理解できなかったり、子供も自分も体調を崩すことが多く、自分の将来のキャリアを描くことはなかなか難しかったです。

日々の業務、課題に取り組みながら、子供が大きくなるにつれ仕事への負担を増やしていく中で、業務の幅を広げつつ、単身でのイギリス出向も経験することができました。家族や両親の自身の仕事に対する理解、サポートがあってこそだと感謝しています。今思えば手探りで、思うようには両立できない日々でしたが、子供に対しては親の働く姿を見せることも大事なのだなと最近は思えるようになりました。

現在はフレックス勤務や在宅勤務が選べる勤務先や、家事サポートのツールも多くあり、多様な働き方も可能なので自身の時よりは両立しやすいのではないかと思います。

中高生に「理系のススメ」をお願いします。

中高生の時は将来のなりたい姿が明確ではないかもしれませんが、自分の興味のあること、面白いなと思うことへの追及はとても大事ですので、芽生えた感覚を見逃さないでほしいです。また理系の科目に苦手なものがあったとしても、あきらめないで進む道を探してほしいと思います。理系と文系は学生の時には明確に分かれているように感じるかもしれませんが、ライフサイエンスの分野で文系の能力も必要ですし、金融の分野でも理系の能力も必要ですので、案外ブロードな部分も多く存在します。あまり向き不向きを決めずチャレンジするのがよいと思います。自分で選択できない時も多くありましたが、迷った時は困難な方(想像がつかない方)を選ぶことにしています。その時は大変ですが、結果として今の自身の成長につながっていると実感しています。