昨年に続いて今年も、観測史上最も暑い7月でした。2年連続で日本の7月の平均気温の最高値を更新しました。福岡県太宰府市では、猛暑日(最高気温が35℃以上)が8月25日現在で38日連続し、最長記録を更新しています。
連日、熱中症で亡くなった人数や救急搬送の件数が報道されています。熱中症の発生場所は住宅等居住場所が最も多く、昨年6〜9月に東京消防庁に救急要請のあった熱中症のうち39.5%を占めました(参考1)。
家をつくるなら
徒然草は、第五十五段を「家の作りやうは夏をむねとすべし」と書き出しています。かつての日本家屋は、戸や襖を外せば家中に風が通りました。今は、夏の暑さをエアコンによって凌げるようになり、風通しの良い家よりも、冬を暖かく過ごすために機密性・断熱性を高め、床下暖房が設置された家が好まれるようになりました。
冷房より自然の風が好きな人も多いと思いますが、この猛暑では、熱中症を防ぐために冷房が不可欠です。機密性・断熱性は冷房の効率も良くするので、エネルギー消費を抑えることができます。
夏の思い出
都市の中心部の気温が郊外に比べて高くなることを、ヒートアイランド現象といいます。季節によらず生じますが、特に夏は、気温上昇が都市生活の快適性を低下させるので問題です。東京における猛暑日は、2022年は16日、2023年は22日で、2年連続で最多を更新しました(参考2)。今年は何日になるでしょう?
20世紀の東京はどうだったかというと、猛暑日は1995年の13日が最多で、次に1994年が8日、1942年と1978年が7日でした。猛暑日の無かった年が53回あり、平均すると年に1.29日でした。
最近は、熱中症の危険があるために学校の水泳の授業が中止になることがあります。私が子供の頃はプールで唇を青くして震えることもあったことを思うと、驚きです。かつての夏は今よりずっと優しい夏で、太陽の下で楽しく過ごした思い出がたくさんあります。夕方になれば自然の風で涼むことができました。大人になってからは、日中の暑さは、夕方のビールを美味しくする引き立て役でした。
地球温暖化による水害
地球規模の温暖化は猛暑をもたらすだけでなく、豪雨による水害を頻発させています。川の氾濫を抑える治水は重要ですが、昨今の水害は、川によるものだけではありません。都市部では、短時間の大雨で道路が冠水したり、地下街に大量の水が流れ込んだりしています。
こうした都市型水害は、地面がアスファルトで覆われることによって雨が地面に浸み込みにくくなり、下水道管へ流入する雨の量が増加し、下水道の処理能力を超えてしまうことが一因です。また、地下利用など土地利用の高度化が進んでいることで、被害が増大しています。都市の構築の仕方を、考え直す必要がありそうです。
地球温暖化に伴う水害は、多くの国・地域で起きています。南太平洋の島嶼国キリバスでは、気候変動による海面上昇で、海岸沿いの家が海に飲み込まれました(参考3)。その一方で干ばつが頻繁に起こり、雨が降らないため安全な水の確保が難しくなっています。
地球温暖化への取り組みは?
このような気候変動には、人間活動による温室効果ガスの増加が影響しています。「地球温暖化の阻止は、喫緊の課題」と、昨年、このコラム欄(参考4)に書きました。取り組みは進んでいるでしょうか?
川の氾濫を防ぐために堤防を高くすることは、対症療法に過ぎません。根本的には温室効果ガスの削減が必要です。しかし、各国の指導者の発言からは、その優先順位は高くない印象を受けます。米国の前大統領による「drill, baby, drill(化石燃料を掘りまくれ)」という言葉もあります。また、温暖化対策には、南北格差の問題や、国際的な分断が立ちはだかっています。
知的生命は何をもたらすか
温暖化対策への取り組み具合や、絶えない国際紛争、核兵器による脅しを見ていると、生物進化における知的生命の出現は何をもたらすのだろうと考えてしまいます。
地球の歴史の中でさまざまな生物が登場し、環境に適応できないものは淘汰され、滅亡してきました。人類は知的に最も発達した例ですが、もしかすると、残念な例になってしまうのでしょうか?
数十億年も先の話ですが、地球は、膨張した太陽に飲み込まれるといわれています。それに先んじて地球は生物の住めない惑星になります。しかし、人類は自らの行いで、近い将来にこの惑星を住めない場所にしてしまうのかもしれません。
地球外生命の探索
7月25日に米航空宇宙局(NASA)は、火星にかつて生命が存在した可能性を示す痕跡を火星探査車パーシビアランスが見つけたと発表しました。パーシビアランスに格納された試料は、2030年代に地球に持ち帰られる予定だそうです。改めて詳細に分析して最終確認されれば、地球外生命の存在を初めて裏付ける発見となります。
知的生命はどうでしょうか? 地球外生命の通信電波を探知しようという計画があるとのことです(参考5)。いずれ、自然現象とは考え難い電波が観測されるのではないでしょうか。
知的生命はどれだけ存続できるのか
知的生命は地球以外にも存在すると、私は信じています。いつか、それを示唆する発見があることと思います。しかし、人類が地球外知的生命と何らかのコミュニケーションをすることがあるかというと、悲観的になってしまいます。
地球外からのシグナルを解読するには相当な時間が必要でしょう。さらに双方向の通信となると、地球外生命が、我々と交信可能なタイミングと距離で存在することが必要です。距離によっては、たいへん気の長いやりとりとなります。
無線通信が発明されたのは1895年です。138億年ともいわれる宇宙の長い時の流れの中で、人類が電波による通信を手にしているのは、たかだか130年です。地球外知的生命との交信が実現するまで、人類は文明を維持しながら存続できるでしょうか? 私たちは、人類が築いた以外の文明を知りません。文明がどれくらい長く続き得るのかを知りません。
人類史において、いくつもの文明が滅びました。高度な文字、法制度、都市計画などをもっていた古代メソポタミア文明。ピラミッドや神殿、壁画などの文化的遺産を残した古代エジプト文明。高度な天文学、数学、建築技術を持ち、壮大なピラミッドや神殿を建設したマヤ文明など。これらの文明が当時の高度な技術や文化を誇りながらも衰退した理由は必ずしも明確ではありませんが、共通点として内外の政治的要因や自然環境の変化があるようです。それは、私たちの課題でもあります。
地球外の知的生命は、高度な文明をどれくらいの間もち続けているのでしょうか? 彼らも互いを殺戮し合い、破滅的な大量破壊兵器による脅し合いをするのでしょうか? 自らの環境破壊によって苦しんでいたりするのでしょうか?
地球外知的生命と出会うために
地球外にどのような知的生命体がいて、どのように生きているのか、私は知りたく思います。今、私たちが向き合っている、あるいは向き合うであろう危機は、彼らにとってはどうなのか、知りたく思います。
人類がそれを知るために絶対に必要なことは、そのときが来るまで文明を維持して存続することです。そのためにも、地球温暖化の危機も、国際紛争による危機も、乗り越えなければなりません。
【参考】
1. 東京消防庁、熱中症の統計資料、ttps://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/topics/season/toukei.html
2. 気象庁、ヒートアイランド現象、大都市における猛暑日日数の長期変化傾向、https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/himr/himr_tmaxGE35.html
3. JICA Magazine 2024年6月号、海面上昇に直面するキリバスの人々の暮らし、https://jicamagazine.jica.go.jp/article/?id=202406_11s
4. 井上英史、CERT 名誉教授コラム「地球温暖化、記録的な夏を終えて」、https://cutting-edge-research.toyaku.ac.jp/series/2629/
5. 山岸明彦、CERT 名誉教授コラム「宇宙人はいるか?」、https://cutting-edge-research.toyaku.ac.jp/series/3328/