名誉教授コラム

全生物の進化系統樹

山岸 明彦
 

右上の図は全生物の進化系統樹である。この図では、Furukawa ら(2017)とTimetree of Life (Hedges and Kumar, 2009)をもとに、全生物の系統樹を模式的に示した。地球上の全生物は一つの共通祖先から誕生した。全生物の共通祖先から様々な原核生物が誕生し、やがて古細菌から真核生物が誕生した。

生命の起源の年代

生命の歴史を化石によってたどれるのは38億年前までで、おそらく生物によってつくられた38億年前の炭素の粒がのこっている(掛川2017) 。したがって生命の誕生が38億年前より前であることが分かる。

一方、40億年前くらいまで大きな隕石の衝突が地球にも頻繁に起きていたので生命の起源は40億年前ころと書かれる場合が多い。しかし、大きな隕石衝突の起きていた時期やその生命への影響は不明の点が多い。今後、生命誕生時期が40億年前から、その前後に変更される可能性がある。名誉教授コラム「生命の起源:RNAワールド」では生命の起源を41億年前頃とした。

全生物の共通祖先の年代

全生物の共通祖先やその直後に分岐した古細菌種と真正細菌種の分岐年代は42億年前から38億年前と推定されている。誤差が大きいが、全生物の共通祖先が約40億年前頃にいたという表現をしている。つまり、生命の起源や全生物の共通祖先がいた時期はまだ未確定で、今後変更される可能性がある。

全生物の共通祖先はどの様な生き物か

全生物の共通祖先は300以上の遺伝子をもっていたのではないかと推定されている(Weiss, et al. 2016)。全生物の共通祖先は現在の生物と同じ遺伝の仕組みをもっていた。すなわちDNAに遺伝情報を保持して、複製し、転写翻訳によってタンパク質を作っていた。また、現在の化学合成細菌に似た代謝の仕組みをもっていて、二酸化炭素を固定することができた(Weiss, et al. 2016)。全生物の共通祖先は80℃以上にすむ超好熱菌であった(Akanuma et al. 2013)。

全生物の共通祖先をコモノート(commonote: Yamagishi, et al. 1998; Akanuma et al. 2015)と名付けた。全生物の共通祖先はルカとよばれることも多い。全生物の共通祖先(コモノートあるいはルカ)は、生命の起源で誕生した最初の生命である「RNA細胞」(名誉教授コラム「生命の起源:RNAワールド」)とは全くの別物である。

全生物の共通祖先からの分岐

全生物の共通祖先から2種類の生物、真正細菌の祖先と古細菌の祖先が誕生した。筆者らはこの事から全生物を三つに分けるのでは無く、二つ(ドメイン-バクテリアとドメイン-アーキア: 後者は真核生物を含む)に分けるのが良いと考えている(Furukawa, et al. 2017)。しかし専門的な議論をするのでなければ、これまで通り真正細菌、古細菌、真核生物で構わない(この場合にはドメインとつけない方が良い)。

真正細菌と古細菌の多様化

真正細菌と古細菌の細胞は1µm前後の大きさで、核やミトコンドリアを持たず、原核生物とよばれている。

多種の原核生物はそれぞれ異なった性質を持っている。生育に酸素が必要な種、酸素が無くても良い種。生育に有機化合物が必要な種、有機化合物が無くても炭酸固定で生育できる種など様々である。原核生物は、多様な代謝を行う多種に分岐した。

真核生物の誕生

真核生物は、ロキ古細菌を含むアスガルド古細菌の祖先から誕生した(Spang, et al. 2015)。真核生物にさらに近縁な古細菌の探索も行われている(Williams, et al. 2020)。

真核生物は、原核生物と比べて細胞の大きさが千倍ほど大きく、ゲノムも千倍ほど大きい。真核生物のゲノムDNAは核の中に存在している。

真核生物細胞は、ミトコンドリア、小胞体、ゴルジ体などの細胞小器官を持っている。ミトコンドリアはアルファプロテオバクテリア、植物の葉緑体はシアノバクテリアの祖先が細胞内共生して誕生した(Yokobori and Furukawa, 2019)。それ以外の細胞小器官の起源はまだ分かっていないが、アスガルド古細菌の祖先から真核生物が誕生した。

引用文献

Akanuma, S. et al. (2013) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 110, 11067.
Akanuma, S. et al. (2015) Evolution 69:2954–2962.
Furukawa, R. et al. (2017) J. Mol. Evol. 84, 51-66.
Hedges, S. B. and Kumar, S. (2009) "The Timetree of Life", Oxford University Press, New York.
掛川 武 (2017) 生物の科学 遺伝71, 133-138.
Spang, A. et al. (2015) Nature 521, 173–179.
Weiss, M. C. et al. (2016) Nature Microbiol. 1, Article number: 16116.
Williams, T. A. et al. (2020) Nature Ecology & Evolution 4, 138-147.
Yamagishi, A. et al. (1998) From the common ancestor of all living organisms to protoeukaryotic cell. In "Thermophiles: The key to molecular evolution and the origin of life?" (eds. J. Wiegel and M. Adams), Taylor & Francis Ltd., London, pp. 287-295.
Yokobori, S. and Furukawa, R. (2019) Eukaryotes appearing. In "Astrobiology: From the origins of life to the search for extraterrestrial intelligence" (eds. A. Yamagishi, T. Kakegawa and T. Usui.), Springer, Singapore, pp. 105-121.

投稿日:2025年07月07日
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