植物・天然物

生薬自給率向上へ、
日本の薬用植物の
可能性を探る

国内での栽培化を目指しマオウ、カンゾウの栽培研究

東京薬科大学のキャンパス内には、約2,000種に及ぶ薬用植物を集めた薬用植物園がある。4万1千㎡もの広い園内では、温帯から熱帯までに生育する数々の薬用植物・有用植物を観察することができる。この薬用植物園を拠点として薬用植物資源の保存と活用に関する研究・教育に取り組んでいるのが、三宅克典准教授だ。

「薬用植物は生薬に加工され、それらを組み合わせて漢方薬や医薬品が作られます。日本の生薬の自給率はわずか10%。約8割を中国に依存しています。カントリーリスクを考えると、できるかぎり国内で栽培・採集することが望まれています」と三宅准教授は研究背景を語る。しかし薬用植物の国産化はそれほど簡単ではない。本来の自生地と異なる環境で栽培できるか、生薬の原料として見合ったコストで生産できるかといった課題に加え、何より難しいのは、野菜などと違って人工的に栽培できるような品種改良がほとんど進んでいないことだ。

三宅准教授は漢方生薬の原料植物のうちとりわけ国内自給率が低いものを中心に、国内での栽培化を可能にするための研究に力を注いでいる。中でも着目しているのが、麻黄(マオウ)と甘草(カンゾウ)だ。これらを市場に流通させることを最終目標に、国内での栽培条件の検討や、栽培方法の開発に取り組んでいる。

三宅准教授によると、麻黄はマオウ科(Ephedraceae)植物の地下茎を乾燥した生薬のこと。『日本薬局方』に規定されているのは“Ephedra sinica”“Ephedra intermedia”“Ephedra equisetina”の3種で、その中でも流通量が少なく、国内で大規模な栽培実績のない“E. intermedia”に焦点を絞って栽培化の方法を探っている。「2017年から2年間にわたって挿し木による繁殖を試み、生育状況を検討しました」と三宅准教授。1年目は8615本を挿し木し、13.2%が発根、7.78%が活着、2年目は1万3391本に挿し木し、17.9%が発根、12.3%の活着に成功。その結果から季節や個体によって発根率に差があることを突き止めた。「挿し木の適期は6月から9月にかけて。収穫期にあたる秋は挿し木に適さないことがわかりました。また同じ時期、同じ条件で挿し木しても、発根率には系統間でバラつきがあり、アルカロイド含量など薬用面の優劣以外に、挿し木の適性も選ぶ必要があることも確かめました」。

また葛根湯などの原料になるカンゾウについては、中山間地にある小規模耕地を利用した栽培化の方法を開発しようとしている。考案したのが、育苗容器に竹筒を用いる方法だ。「実際に栽培し、既存の育苗法と同等に育つことを確かめています。今後は薬用成分の含量を維持する方法を検討していく予定です」。

国内の薬用植物の資源調査を実施
生薬の国産化に役立てる

栽培方法を探求する一方で、国内に自生する薬用植物の資源調査も行っている。生産効率の高い品種を開発するためには、多様な遺伝資源や生育条件に関する情報が必要になる。三宅准教授は自給率の低い、あるいは野生品に依存している蔓性・低木薬用植物を対象に、国内外の自生地に赴き、調査を行ってきた。2021年からは5年計画でカギカズラ、オオツヅラフジの国内調査を進めている。三宅准教授によると、釣藤鈎(チョウトウコウ)の原植物であるカギカズラは、国内の暖かい地域に広く分布している。それにも関わらず、国内で消費される釣藤鈎はすべて輸入に頼っている現状があるという。

2021年に四国で自生地調査を実施。4県の計28カ所でカギカズラの自生を確認した。「分析してみると『日本薬局方』で規定されている総アルカロイド(リンコフィリン、ヒルスチン)の含量には地域差があることがわかりました」と三宅准教授。今後は遺伝資源を確保し、栽培化した時にもアルカロイドの含量が維持されるか調査を進める。

日本各地で採集した貴重な植物エキスライブラリを作製

三宅准教授のもう一つの大きな仕事は、日本各地で採集した植物から抽出濃縮物を集約し、植物エキスライブラリを作製することだ。大規模な化合物ライブラリを保有している製薬企業や大学は少なくないが、植物エキスのライブラリは稀有な存在だ。「化学合成だけでなく、天然の植物から新薬を開発する研究もいまだ盛んに行われています。それに加えて、海外原産の植物を手軽に取り寄せるのが難しくなっている現代では、ライブラリの重要性はますます大きくなっています」。三宅准教授は希望する研究者には快く植物エキスを提供しており、東京薬科大学でもこのライブラリの植物エキスを用いた貴重な研究成果がいくつもあがっている。

さらには薬用植物園を通じた薬学人材の教育にも尽力している。展示植物の充実を図るとともに、効果的な展示方法についても検討を重ねる。「実物を見るだけでなく、学名や含有化合物、その構造式など専門的な情報が有機的につながって初めて有用な知識として身に付きます。こうした情報も展示し、薬剤師を目指す人への教育はもちろん、将来は薬剤師の再教育にも役立てたい」と展望を語った。

見本園(左)と温室(右)。温帯から熱帯に生育する代表的な薬用植物、有用植物を観察することができる。
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