CERT02がん・免疫

「第二の白血病」
骨髄異形成症候群の
患者を治したい

60歳以上に好発する骨髄異形成症候群
世界に先駆け責任遺伝子を発見

骨髄異形成症候群は、難治性の血液疾患で、「第二の白血病」ともいわれている。特徴的なのは、若い世代にはほとんどみられないが、高齢になると急激に増えることだ。60歳以上で最も高頻度に発症する血液がんであり、高齢化が進む現代社会において見過ごすことのできない疾患となっている。

「骨髄異形成症候群は、骨髄中の造血幹細胞に異常を来し、血液細胞が正常に造られなくなることで起こります。赤血球や白血球、血小板を造る能力が低下することに加えて、大きな問題は、高い確率で急性骨髄性白血病に移行することです」と説明するのは、骨髄異形成症候群の先駆的な研究者の一人である原田浩徳教授だ。骨髄異形成症候群から移行する急性白血病は、若年者にもみられる一般的な急性白血病とは病因が異なっており、病気の存在は長い間わからないままだった。

世界に先駆けてこの疾患の責任遺伝子としてRUNX1遺伝子変異を発見したのが原田教授である。教授は遺伝子解析によって、染色体の21番に位置する転写因子RUNX1遺伝子に変異(傷)が見られることを見出した。「骨髄異形成症候群は、造血幹細胞においてRUNX1遺伝子の変異が生じ、血液細胞の分化や増殖に影響を及ぼし発症すると考えられます」。

染色体にある膨大な数の遺伝子のうちのたった1個の塩基の置換によって、骨髄異形成症候群が引き起こされるという驚くべき発見に、当初は多くの異論が巻き起こったという。原田教授は、マウスを用いた実験によってこの説が正しいことを実証した。さらに臨床検体を解析し、RUNX1変異が骨髄異形成症候群やそれが移行した急性骨髄性白血病で高頻度に認められることを明らかにしている。

発症メカニズムの解明と治療法・治療薬の創製を目指す

原田教授が重視するのは、学術的な成果よりも、それをいかに治療に役立てるかである。その背景には、臨床医として経験を重ねる中で、根本的な治療法のない病を患う患者を前に、診断を下すことはできても治療できないジレンマに苦悶し、研究の道へと進んだ経緯がある。そのためRUNX1遺伝子変異の同定以降は、いまだ不明点の多い骨髄異形成症候群の発症メカニズムの全貌解明を目指すとともに、治療法や治療薬を探究し続けている。

「RUNX1遺伝子異常単独では骨髄異形成症候群などの血液がんは発症しません。これまでの研究で、RUNX1にいくつかの遺伝子異常が組み合わさることで骨髄異形成症候群を発症することがわかってきました」と原田教授。もしRUNX1と協調する遺伝子異常を制御できれば、発症を抑えることが可能になる。

教授は、骨髄異形成症候群の発症に関与すると考えられる遺伝子異常を探索し、試験管や動物実験でその機能を解析。その遺伝子異常を抑える候補化合物を見つけ出した。マウスによる実験でも効果を確かめており、新しい治療薬の開発に近づいている。

先天的な骨髄異形成症候群をいかに治療するか、新たな挑戦

「加齢や放射線などによってRUNX1遺伝子変異は起こりますが、近年、それ以外に生まれながらにRUNX1遺伝子に傷を持つ家系の存在が明らかになってきました」と原田教授は続ける。教授はこの家族性の骨髄異形成症候群の家系を対象に、発症までのプロセスを解析し、疾患の発症に関与する新たな付加的遺伝子異常を発見した。

家族性骨髄異形成症候群の家系でまだ発症していない人の血液から採った末梢血リンパ球を使ってiPS細胞を樹立し、造血機能がどのように破綻を来すのか、そのメカニズムを明らかにした。「先天的な遺伝子異常の患者とどのように向き合い、どのように治療するのか。新しいチャレンジだと考えています」。

また急性骨髄性白血病をはじめ、骨髄造血腫瘍の発症や進行には、周辺環境である骨髄微小環境の関与が少なくないことも指摘されている。骨髄微小環境は、造血細胞の生存や増殖に寄与する細胞外のマトリックスやネットワークを指す。原田教授は、その一つである骨髄線維化について発症メカニズムを解き明かした。現在はモデルマウスを作製して線維化を抑制する物質を探索している。

「一遺伝子、一細胞の異常ではなく、病気を患っている患者さん(個体)を見ることががん研究において何より重要」との信念を持つ原田教授。臨床現場に接して実際の患者の遺伝子異常を見出し、その病態に基づいて発症メカニズムに迫っていく。臨床と基礎研究をつなぎ、どんな時も「患者の病気を治す」ことを主眼に今も研究に全力を注ぐ。

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投稿日:2022年01月27日
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