学生によるサイエンスコミュニケーション

サステイナブルな社会実現への微生物の可能性

生命エネルギー工学研究室(応用生命科学科)
写真:渡邉一哉教授

電気を発する微生物の研究を行い、サステイナブルな社会の実現を目指す渡邉一哉教授。 渡邉教授が研究を通して実現したい社会とは?

最近よく耳にする「サステイナブルな社会」。人類が地球環境と調和を保ちつつ営みを続けられる社会の形のことです。環境問題に興味がある私は、それが具体的にどのような事なのか紹介したいと考え、同研究室の渡邉一哉教授に取材をしました。

今の研究を始めたきっかけは?

以前は海洋バイオテクノロジー研究所という企業で、メタン発酵の研究を行なっていました。メタン発酵菌に関する論文を出版したのは20年前で、ちょうどそのころ、発電が期待される微生物がアメリカで見つかりました。その微生物と、論文にしたメタン発酵菌の性質が類似していたことから、共同研究のお誘いがきました。それが、電気を流す菌に興味をもったきっかけです。

最近直面している課題は?

これらの菌を用いれば、廃棄物処理にかかるエネルギーを削減できる可能性があります。 そこで現在は、企業に技術移転して研究中です。しかし、コスト面などの問題で、まだ実用化には至っていません。この研究はすでに大学の外側にありますが、私たちは企業からの受託研究の形で、可能な限り協力しています。

ライバルのように感じる研究は?

研究のライバル、という考え方はしないですね。サステイナブルな社会実現のために重要なことは、多様性だと考えています。例えば、温暖化対策で化石資源は完全に利用停止となれば、今の生活は維持できません。これでは「サステイナブルな社会」とは言えないと思います。化学物質の合成などの化石資源の強みを生かした利用は残し、発電菌などの新たなエネルギー源で燃料としての利用を補えたら良いと考えています。つまり、重要なのは「うまく利用していくこと」で、どれかを排除するのではなく、どれもが1つのオプションとなるという考え方の下で研究していくことが大切だと考えています。

サステイナブルな社会の実現に必要なことは?

1つの問題をみんなで一緒に考える、サイエンスコミュニケーション活動が重要だと考えています。例えば食品廃棄物は、発電菌に与えれば電気を得ることができます。しかし分別ができれば、家畜の飼料など別の利用もできます。なので、ゴミに関するルール作りやゴミの分別など、みんなでうまく連携を図っていくことが必要です。現在、日本科学未来館と連携したサイエンスコミュニケーション活動を企画しています。中高生にも参加してもらい、全国で効率の良い発電菌を探すイベントを開催する予定です。

ご自身の研究を通して実現したい夢は?

この研究の社会実装が夢です。社会に実装されるということは、環境問題の改善につながるとともに、企業などには(利益などの)メリットももたらされるプロセスができた、ということを示せるからです。

ありがとうございました。

※本記事は授業「生命科学ゼミナールⅡ(サイエンスコミュニケーション入門)」の一環として、学生が取材、執筆を行いました。