学生によるサイエンスコミュニケーション

私は薬学を学ぶ学生サイエンスコミュニケーター

SMALL TALK about SCIENCE

私は薬学部の3 年生です。昨年より、本学のユニークなインターン制度「学生サイエンスコミュニケーター」に参加し、大学で学ぶ学問の面白さを社会に広く発信する活動を行っています。今回は、私の経験を皆さんにご紹介したいと思います。


私たち学生サイエンスコミュニケーターの活動の一つに、中高生向けの実習の企画と運営があります。学生でありながら先生たちと一緒に実習を企画し、中高生に対して実習を行います。現在私は、薬学部薬物送達学教室の髙橋葉子先生にご協力いただき、カプセル剤、内核と外層を有する構造の有核錠、成分がゆっくり溶け長く効く徐放錠、口の中で速やかに崩壊するため水なしでも飲める口腔内崩壊錠、胃で溶けず腸で溶ける腸溶錠など、剤型の違いなどから製剤設計の工夫について学ぶ実習を作っています。この内容は薬学部3年生の授業で詳しく学ぶものですが、それを中高生に分かりやすく伝え、且つ興味を持ってもらうにはどうしたら良いか、日々悩んでいます。


では、中高生が興味を持つ実習とはどんなものでしょうか。その一つに、色の変化やシュワシュワとした気体の発生など、結果が目で見て分かりやすいことが挙げられます。私たちは、「目でみて分かりやすい結果」を重視して実習で扱う薬剤を選んできました。具体例として腸溶錠についての実習を紹介します。現在様々な腸溶錠が市販されていますが、今回は表面が赤色で内部が黄色の製剤を使用することにしました。まず、日本薬局方に記載されている通りに、胃液・腸液と同様のpHをもつ溶液をそれぞれ調製し、この製剤を一錠ずつ溶かしてみました。胃液と腸液とで溶解の様子に違いが見られたら成功ですが、両溶液とも薬剤表面の赤色の部分が溶け、腸液でのみ薬剤内部の黄色の部分まで溶けました。しかし、両溶液とも全体が赤色に染まってしまい、違いが分かりにくくなってしまいました。次に、薬剤表面の赤色部分が両溶液で溶けることが分かったので、初めに水で薬剤表面を溶かしてから胃液、腸液に入れました。すると、腸液でのみ薬剤内部が溶けだして黄色に染まり、胃液は白泥色、腸液は黄色になりました。以上より、この実習では、薬剤の溶かし方に工夫をすれば「目で見て分かりやすい結果」が得られるこの製剤を採用することにしました。薬一つを選ぶにしても思い通りにならないことが多かったので、納得できる結果が得られたときはとても嬉しかったです。また同時に、私自身の薬に対する理解も深まった気がしました。


サイエンスコミュニケーションの目的として、中高生のみなさんが実習などを通して様々な疑問を抱き、科学に対する興味を深めてもらうことがあります。今回の実習では、なぜ胃ではなく腸で溶ける薬が必要なのか、どのようにして胃で溶けず腸で溶けるのか、胃液と腸液にはどのような違いがあるのか、薬は溶けた後はどのように身体に作用するのか、など様々な疑問がでてきたらいいな、と思っています。私たちは、どんな質問が来ても中高生の皆さんに納得してもらえるような回答ができるよう、日々勉強していきたいと思っています。