学生によるサイエンスコミュニケーション

エクスポソームと健康

SMALL TALK about SCIENCE

皆さんは「エクスポソーム」という言葉を聞いたことがありますか。

今回、細胞情報科学研究室の伊藤昭博先生にエクスポソームと、それを新しい戦略で明らかにする研究について話を伺い、興味を持ったので紹介させていただきます。

まず、エクスポソームとは『ヒトが生涯曝露する環境因子の総体』として定義されています。一卵性双生児の研究調査から、がんなどの疾患の遺伝的寄与率は低く、環境因子による健康への影響への寄与が高いと考えられています。このような背景のもと、「エクスポソーム」という概念が2005年に提唱されました。この概念は大変魅力的ですが、環境因子の種類は無限にあるため、分析科学分野での検出法の開発や統計学を用いた解析技術の開発など、エクスポソーム研究は曝露学が中心であり、環境因子と健康の因果関係を明らかになるまでには至っていません。

細胞情報科学研究室では、エピジェネティクスというDNA塩基配列の変化を伴わない遺伝子発現の差異を生み出す仕組みに注目し、エピジェネティクスを標的とした創薬研究などを行っています。このエピジェネティクスによる遺伝子発現はヒストンの化学修飾によって調節されています。伊藤先生らは、ヒストンの化学修飾は生体内に存在する内在性代謝物が結合することによって起こることに注目し、環境由来の外来性化学物質も同様にヒストンに結合するのではないかと考えました。実際、複数の環境化学物質がヒストンに結合し、遺伝子の発現変化をもたらすことを明らかにしています。伊藤先生らはヒストンに結合する環境化学物質に限定したエクスポソーム研究を展開し、健康への影響を明らかにしようとしています。

研究室の先輩にインタビュー
エクスポソーム研究のおもしろさ

学部3年生のときに立ち上げメンバーとしてこのテーマで研究を始めました。もともとはがんの研究がしたかったのですが、エクスポソームの研究をしている人が日本にあまりいないことや新しい戦略で研究を推進することに惹かれたため、このテーマにしました。研究室の中で同じ研究をしている人がいなかったため、実験の条件検討等でたくさん苦労しましたが、同時に研究方針の定め方を学ぶことができました。

伊藤先生にインタビュー
エクスポソーム研究の社会的意義と今後の展望

これまでの研究から、ヒストンに結合する環境物質は多く存在しているのではないかと思われます。それら環境物質によるヒストン修飾を介した遺伝子発現変化を明らかにできれば、健康への影響解明につながり、ひいては、健康の未来予測や疾患予防、食品添加物の再考、新しい機能性の発見につながると期待されます。