皆さんは、「サイエンスコミュニケーター」という言葉を知っていますか?
最近では、元日本テレビのアナウンサーの桝太一さんが、サイエンスコミュニケーターに転身されたというニュースで、耳にされたかもしれません。サイエンスコミュニケーターとは、自分の研究を専門家でない人に簡明に伝える方法がわからないという研究者と、科学が難しいという一般人の間に入って、科学を身近に感じて貰うために、分かりやすく伝える人のことです。具体的には、科学館等で、来場されたお客様に展示の紹介や実演をしている人をイメージするとわかりやすいかもしれません。
私は、今年度から、東京薬科大学で「学生サイエンスコミュニケーター」を務めています。学生版のサイエンスコミュニケーターということで、「科学を伝える」という役割は、大人のサイエンスコミュニケーターと変わりませんが、対象の世代を問わない大人のサイエンスコミュニケーターとは異なり、私達は中学生や高校生に向けて科学を伝える機会が多いです。
サイエンスコミュニケーターの役割として最も大事なことは「いかに相手の目線に立てるか」ではないかと私は思っています。中学生や高校生も一律に「学生」と括ってしまうことは簡単ですが、「中学生に向けて」と「高校生に向けて」では求められる役割が違います。中学生に向けては、文理選択前の生徒に、いかに科学、つまり理系に興味を持ってもらえるかを考え、より身近で、生活で感じられるようなテーマを設定します。一方、高校生に向けては、理系選択の生徒に対し、より科学を好きになってもらうにはどうしたらいいかと、高校の化学や生物の教科書にも書かれているような少し高度な話を組み込んだりします。対象となる世代や立場によって目線を変えて、合わせる、それが難しく、また面白いことだと今までの活動から感じました。
サイエンスコミュニケーターは、「コミュニケーター」というだけあり、一方的に相手に科学を教えるだけでなく、科学について両者が話し合う場所を作り、より良い社会を作っていくという役割もあります。私達も相手に教えるだけでなく、相手から教わることも多いです。私は、学生サイエンスコミュニケーターとして、中学校で実験教室を開催した時に、学んだことがあります。中学生は好奇心旺盛で、自分の思った意見をすぐに言うことができて、沢山のアイディアが出てきます。一方、私は、科学の様々な原理を学んできたことでむしろ、「この考えは間違っているんじゃないか」「私の知識不足なのではないか」と躊躇して、意見を言えなかった場面もありました。そこで、中学生のように、思いつきを率直に口に出すことでアイディアの種が沢山広がることを知り、深く考えるだけでなく、私も率直な気づきも大事にしていきたいと思いました。
「サイエンスコミュニケーター」。あまり馴染みのない言葉かもしれませんが、サイエンスコミュニケーターに出会った時は、是非沢山「コミュニケーション」をとってみて下さい。