若⼿研究者コラム

愉快な時間

松尾 侑希子

年齢的には若手と言えない私ですが、研究者としてはまだまだ未熟です。未熟な自分への内省文もこめつつ、本広報誌の読者である高校生に向けて大学での研究の様子を少しでも伝えられるよう、このコラムを書いてみようと思います。

大学での研究の醍醐味は、研究を通して学生の能力を伸ばし高められることだと思います。教員が自分の持っているものを惜しみなく学生に教えるつもりで、さらにそれを受ける学生が自分の青春を研究にかけるつもりなら、研究室はwin-winの素晴らしい場になります。薬学生が卒論研究に取り組める時間は限られていますが、目標とやりがいを見出した学生はその短い期間でも驚くほど成長します。自分の研究対象の植物や化合物について熱く語ってくれる時、嬉しそうに成果を報告してくれる時、悔しそうに結果を報告してくる時、学生がとても頼もしく見えます。同時に、学生の思い切りの良さや意外な行動は私の視野を広げ、たくさんの事を教えてくれます。良いデータが得られた時に一緒に喜ぶのはもちろん、思い通りの結果がなかなか得られず、ディスカッションして次の一手を話し合う時も、学生と共に成長できる貴重な時間だと感じています。

私は生活習慣病およびがんの治療薬のシーズ化合物の探索をテーマに高等植物の成分研究に取り組んでいます。また、抗がん剤の投与量を減らして副作用を軽減するため、天然物と抗がん剤の併用効果を細胞毒性の観点から評価しています。植物エキスを細胞毒性、がん関連タンパク、酵素活性などでスクリーニングし、活性を示したエキスについて同活性を指標に分離することで、シーズ化合物の探索を目指しています。その過程では新規骨格の構造をもつ天然有機化合物を発見することもあり、単純に嬉しいです。自分の構造解析の成果が全合成研究の対象となったり、植物研究が発展的に引き継がれたりするとモチベーションが上がります。漢方薬については、生活習慣病の予防薬としての新たな作用を見出すことを目的に、活性成分の同定と動物実験に挑戦しています。多くの先生方のご指導の下、学会の発表賞や奨励賞も受賞させて頂きました。研究対象は古いかもしれませんが、今、必要とされる医療上の課題にアンテナを張り、努力と勉強を怠らず、とりあえずやってみる精神も忘れずに、今後も研究に励みたいと思います。

「行け、お前の道を行けるところまで。永久に誇り高き愉快なる人よ!!(ヴェルディ『ファルスタッフ』より)」。私が学位を取得した時に、尊敬する友人から贈ってもらった言葉です。学生が最大限に能力を引き出せるように、“ 愉快な” 研究をしなければと気合が入ります。