名誉教授コラム

システムエンジニアリングとは: 何のために、何を、どの様に?

山岸明彦
写真は国際宇宙ステーション日本実験棟曝露部(JAXA/ NASA)と宇宙実験で用いた装置(たんぽぽチーム)

システムエンジニアリングとは

システムエンジニアリングとは、何のために、何を、どの様に行うかということを、何かを実現するために考える技術の事である。これはエンジニアリングなので、技術である。システム開発技術と言っても良いかもしれない。

目的は何だ:何のために?

一般に何かプロジェクトを行おう、課題を解決しようというとき、「よし、それではこれをやろう」、「よし、それではこれからはじめよう」と、すぐに対応策をとりたくなる。その前に、何のために?と問いかけるのがシステムエンジニアリングである。何のために?と目的をきちんと考える事で、後戻りすることが少なくなる。

「よし、宇宙に微生物がいるかもしれない、微生物を捕集しよう」。もちろん、宇宙に微生物がいるかもしれない。だけど何のためにその実験を行うのか。何かプロジェクトを実施する場合には、プロジェクトを行う目的が最も重要である。プロジェクトの目的に価値がなければ、そのプロジェクトを実施する意味は無い。目的そのものの意義が最も重要である。

研究に関わるプロジェクトであれば、今わかっていることは何で、わかっていないことは何なのか、その中で何を調べることが重要なのかが問題になる。企業であれば、その課題がその企業にとってどの様に重要な意義をもつのかが問題になるであろう。

例えば、生命の起源の研究であれば、生命の起源に関してはいろいろなことが解ってきている。しかし、それでは生命は地球で誕生したのかと問われれば、生命が地球で誕生したという証拠は無い。ひょっとすると生命は惑星間を移動しているかもしれない。それを調べよう。そういう研究課題であれば研究する価値がある。何かプロジェクトを実施する場合に、プロジェクトの目的をはっきりさせることが最初に行うべき事である。

何をするか

よし、それを調べるために微生物を捕集しよう。だけど、微生物捕集なんてどうやってやるのか。何のために微生物を捕集するのか。それで生命が惑星間を移動しているかがなぜわかるのか。

目的が決まっても、その目的のために何を行うのかということは、目的とは別の話である。しばしば、目的がきまるとすぐに何をするかまで決めてしまう。これが大きな間違いである。その目的を達成するために何をすることが有意義なのかを考える必要がある。

関与する事柄を列挙する

仮に微生物が宇宙空間を移動すると仮定する。すると微生物が移動する過程には様々なステップがある。まずどこかの惑星に微生物がいなければならない。次にその惑星から宇宙空間に微生物が脱出しなければならない。微生物が宇宙空間を移動する方法もあるはずだ。移動している間に微生物は生存していなければならない。到着した惑星に微生物が生きたまま着地しなければならない。最後にそこで微生物が増殖しなければならない。他に重要なことは無いだろうか。という様に、問題に関与する事柄をすべて列挙することが大変重要である。その中で、調べる価値があり、調べる手段があることを選び出すことになる。

先例を調べる

その目的に関連して既にプロジェクトを行っているグループが他にもいるかもしれない。これまでどの様なことが行われているかを調べることも必要である。既に誰かがなにかをやっていた場合、それがうまくいっていても、うまくいっていなくても、大変参考になる。

これまで、微生物の宇宙曝露実験が何回か行われている。しかしいずれの実験でも、微生物の薄い細胞層を宇宙空間に曝露しているので、紫外線があたると微生物は死んでしまった。ひょっとすると、バイオフィルムの様に微生物細胞層が厚みをもっていれば、生存できるかもしれない。また、これまでの宇宙曝露実験では、曝露は一回だけである。一回だけの曝露では、微生物が死んでいく速度はわからない。微生物がどれだけ生存できるかを知るためには、生存率の時間経過を調べる必要がある。

よしそれでは、厚さをもった微生物の塊を宇宙空間に曝露しよう。それを1年間、2年間、3年間と曝露することにしよう、と決定することになる。実際は、そんなに簡単には決まらない。「目的は、手段は、調べる、そして決定する」という検討を繰り返すことになる。その結果、良さそうな方法が見つかってくる。

それを実施する

最後に重要なのは、それを実施する事である。ある程度の検討がすすんだら、とりあえず実施してみた方が良い。多くの事はわからない事だらけで、考えるだけでは答えに到達できない。このような場合には、ある程度検討がすすんだら始めて見た方が良い。

いつまでも始められないという場合も良くある。その事柄に、だれかの利益不利益がからむ場合にしばしば起きる。始めた方向が間違っているかもしれない。そしたら、それは修正すれば良い。うまくいかないにもかかわらず、変えられない。これも良くある失敗例である。

こうした様々な点を、何のために、何を、どの様に、と考えながら実施していく。これが、私の理解したシステムエンジニアリングである。

 

 

(10/12 本連載は12回連続となります。)