学生によるサイエンスコミュニケーション

面白いと思うきっかけを
つくるには

SMALL TALK about SCIENCE
出典:『世界で一番美しい元素図鑑』
セオドア・グレイ 著 / ニック・マン 写真 / 若林 文高 監修 / 武井 摩利 訳
創元社(2010 年)

皆さんは“理科”という教科は好きですか?小さいころから理科や算数、数学といった教科が得意であった私は根っからの理系女子だったのかもしれません。事実、高校のころ得意であると思っていた教科は理論的に状況を理解し紐解いていくことで正解を導くことができる物理と数学でした。しかしながら、私が面白いと思ったことはあまりありませんでした。それは、目の前で学んでいる学問が知識としては知っていても実際にその現象を見たことがあるわけではない机上の空論であったからだと考えています。

そんな中で私が“理科”に対する見方が変わった一冊があります。「世界で一番美しい元素図鑑」という有名な図鑑をご存じでしょうか。身近に存在する元素から工業的に用いられる元素、現時点では地球上に存在しない研究施設で作られた元素まで写真とともに収載されているこの図鑑を初めて見たときの感動は忘れられません。黒を基調として構成された図鑑にはすばらしい写真と短いながらも興味深い解説文が載っています。元素を見ているという自覚はなく、美術品を見ているような感覚にもなります。けれど、美術品と大きく違うのはあくまでも元素であり身近に存在しているものなのです。この瞬間から私の中で理科というものが空論を語る学問ではなく、いまこの瞬間も存在する学問に変わったのだと思います。

図鑑で紹介されていた美しい毒ガスにもなる塩素という元素は身近な生活の中では塩化ナトリウムとして存在し、次亜塩素酸ナトリウムとして漂白剤として用いられる。このように、図鑑で見たことと授業で学んだこと、身近にあるものそれぞれの点と点がつながっていくのがわかり、どんどんと広がっていくことを知り、これをきっかけに理科を面白いと思う瞬間が増えたのを覚えています。

私がアルバイトやこのサイエンスコミュニケーターの活動を通して関わった中学生、高校生の中に理科を面白いと思っている子は少数派でした。面白いと思っていないものを続けていくことは難しいことであり、私が面白いと思うようになったきっかけは図鑑ですが、実際に自分で行い変化を観察することができる“実験”は、同じ役割を果たしてくれるのではないかと考えています。私のサイエンスコミュニケーターとしての活動を通して理科の面白さを一人でも多く伝えられればと思います。

最後に皆さんはstudyの語源をご存じでしょうか。ラテン語のstudeoからきており、本来は「遊ぶこと」を意味するのだそうです。古代において神を信仰せず、それ以外のこと(=勉強)をしていると暇をしている又は遊んでるということなのだとか。勉強とは本来強要されて無理やり行うより自身の興味をもって楽しんで行うことなのかもしれません。