東薬植物記

モモとアンズの不思議な関係

三宅 克典
写真:蟠桃(バントウ)
蟠桃(バントウ)

岡山県で育った私にとって桃といえば岡山なのですが、東京に移住してからは山梨と福島が主流で驚いた記憶があります。桃はとても傷みやすいため青い状態で流通しますが、本当においしいのは出荷できないくらいに熟れたものです。子供の頃、収穫期には桃の出荷のお手伝いをしていて、売り物にならない桃は食べ放題でした。今思い返してみれば贅沢な話ですね。

中国原産のモモにはいくつか種類があり、美味しい実を付けるモモの他に、花を楽しむハナモモも有名です。また、西遊記で孫悟空が食べたとされる蟠桃というモモがあります。縦につぶれて平べったい形をしており非常に味が良いので、興味のある方は是非食べてみてください。

桃の食用部分を除いた硬い殻の中には、種子に相当する、いわゆる仁が入っています。これを加工したものが生薬「桃仁」で、漢方医学では血の滞りを解消する薬として、婦人病や痔に用いる漢方薬に配合されます。

良く似たアンズも仁の部分を薬として用います。生薬名の「杏仁」はアンニンではなくキョウニンと呼びます。花だけではなく桃仁と杏仁の形状も非常に良く似ています。薬効はというと、血に効く桃仁に対して杏仁の作用はどちらかというと咳止めや解毒とされています。中華料理で食後に杏仁豆腐を食べるのは、食中毒の予防のおまじないと考えることができますね。もっとも、杏仁には甜と苦の二種類があり、薬用と杏仁豆腐では配合比が違いますし、杏仁豆腐の原料の多くはアーモンドの粉なので、期待した効果は得られないかもしれません。なぜアーモンドを?と思った方は、是非花を見てみてください。植物分類的にはアンズやモモに近い種で、特にモモにそっくりです。

これらの仁やビワの葉にはアミグダリンという成分が含まれていて、薬効成分の一つと考えられています。一方で青梅の中毒成分としても知られています。アミグダリンは酵素による分解の過程で青酸を発生し、その濃度によっては致死性の毒として作用します。

薬も過ぎれば毒となるとはまさにこの事です。桃仁などの生薬もたくさん使えば良く効くということはなく、正しく理解して適量を用いることが必要です。