ネパールでの調査を振り返ると、美味しいじゃがいもと唐辛子が思い浮かびます。ネパールの田舎では食事に肉が出てくるのは稀で、ご飯と豆スープと少しのおかずという質素な食事でした。そんな中で食べたジャガイモは、口当たり・風味共に素晴らしく深く脳裏に刻まれています。一方で、物足りないと思っている時にホテルの主人が出してくれたのが青唐辛子。とても良い香りでそのまま食べられます。私がかじりながら米をかきこむと主人が嬉しそうな顔をするので、調子に乗って唐辛子を食べ過ぎてしまい、次の日が大変だったのは良い思い出です。
唐辛子は、ナス科のトウガラシ属(Capsicum)植物の食用にされるものの総称です。辛い「鷹の爪」や辛くない「ししとう」・「ピーマン」などが有名ですが、これらは熱帯アメリカ原産のトウガラシ(Capsicum annuum)の園芸品種です。一方で、沖縄の島唐辛子はキダチトウガラシ(Capsicum frutescens)の園芸品種、とても辛いハバネロはカプシクム・キネンセ(Capsicum chinense)の園芸品種といったように、トウガラシと異なる種も利用されています。
唐辛子の辛さの指標として1912年にアメリカで開発されたスコヴィル値が有名です。代表的な唐辛子のスコヴィル値をあげると、ハバネロは200,000、鷹の爪が50,000、タバスコソースで5000 程度です。ちなみに、写真のキャロライナリーパーは1,600,000で、2017年にHottest chilli pepperとしてギネスレコード認定されています。純粋なカプサイシンのスコヴィル値は16,000,000ですが、世の中にはさらに上がいるもので、トウダイグサ科のハッカクキリンが含有するレシニフェラトキシンは16,000,000,000というスコヴィル値を誇ります。辛みや痛みを通り越して神経が不活化されるため、局所鎮痛薬等への応用が期待されています。
トウガラシの果実は蕃椒という名の生薬で、食欲増進、唾液分泌などの目的に用いられます。ただし、食べ過ぎや胃の弱い人ではかえって胃を痛めてしまうため注意が必要です。近年、真っ赤に染まるまで唐辛子を加えた料理を見かけますが、胃の弱い私はあまり食べたいと思いません。体に合う食事を摂るのが一番です。
※ 東京薬科大学「CERT」による「植物」の研究記事はこちら。