東薬植物記

和の香辛料、サンショウ

三宅 克典

胡椒や唐辛子などに代表される食卓に欠かせない香辛料は、その多くが日本にもともとあるものでは無く、海外原産の植物を国内で栽培しているか輸入されているものです。では、数少ない純和風の香辛料は何かというと、やはり山椒を外すことはできません。

日本の山野に自生するサンショウには近縁種が多くあります。山で普通にみられるイヌザンショウは、青臭くて少し不快な香りがするため食用にされることはほとんどありません。このイヌザンショウ、枝のトゲが互生といって一方向ずつ交互にでるのに対し、サンショウのトゲは対生、すなわち枝の一箇所ごとに二方向ずつ出るので、簡単に見分けることができます。

近年、スーパーマーケットなどで見かける花椒は、中国原産のサンショウに近縁な植物の果皮です。口の中が痺れるような風味が特徴的で、この粉末を用いた麻婆豆腐を知るとただ辛いだけの麻婆豆腐には戻れなくなります。真っ赤な見た目と唐辛子の辛さばかりが強調されることの多い麻辣火鍋でも同様です。四川省調査で食べた際にまず感じたのは花椒による口内の強烈な痺れでした。その後、口、食道、胃、腸と辛いものが通過していくのが感じられ、翌日まで堪能できます。

サンショウの成熟果実から種子を除いた果皮は、山椒という生薬です。味が辛く胃腸を温める効果があります。一方で、種子は椒目という生薬で、体を冷やす作用があります。この相反する作用のため、山椒から種子をできるだけ除いた方がよいでしょう。

生薬山椒の特筆すべき点として、すべて国産で賄われていることがあげられます。生薬全体の自給率が約10%程度であることを考慮すると驚異的なことです。一方で、山椒の収穫は基本的に手作業であり、農家の高齢化もあって、将来にわたる安定供給が約束されているわけではありません。収穫を楽にするためトゲのほとんどないアサクラザンショウなどの栽培品種が用いられていますが、根本的な解決法が今後必要になってくるでしょう。