東薬植物記

ヨモギとその仲間

三宅 克典

道端の雑草としてなじみ深いヨモギ、その葉は艾葉(ガイヨウ)と称し止血やおなかを温める作用があるとされ、芎帰膠艾湯(キュウキキョウガイトウ)に配剤されたり浴湯料として用いられたりします。葉の裏の白い毛を集めると、ご存じのもぐさが出来上がります。

このように多方面で活躍するヨモギですが、同じヨモギ属の植物の中には歴史に名を刻むものがいくつかあります。ここではその中から三つを紹介しましょう。

一つ目はニガヨモギです。アブサンという蒸留酒の風味付けに用いられます。このアブサンは多くの中毒者を出したことで有名で、画家ゴッホもその一人だったと言われています。一時は多くの国で製造・販売等が禁止されましたが、現在は幻覚や習慣性が疑われる成分の量を調整することで販売が許可されています。

二つ目はクソニンジンです。とてもひどい名前とは裏腹に、実際の香りはさほど悪くありません。当然ながら、本植物が歴史に名を刻んだのはそのひどい名前によってではありません。以前、大村智博士がノーベル賞を受賞された際、同時に受賞した中国の屠呦呦博士の研究内容はこのクソニンジンからのマラリア治療薬アルテミシニンの開発だったのです。

三つ目はミブヨモギです。かつて輸入に依存していた回虫駆除薬サントニンの国産化に成功するきっかけになった植物です。サントニンの国産化は、日本から回虫を駆逐することに大きく貢献しました。

ところで、本家ヨモギの最も身近な利用法と言えば、やはり草餅でしょう。草餅のあの深い緑色と独特の香りはまさしくヨモギによるものなのですが、牧野富太郎博士は、本来草餅に用いたのはヨモギではなくハハコグサだと記しています。ハハコグサは別名オギョウといい、春の七草の一つでもあります。色が薄く、香りも強くないハハコグサで作った草餅はどのような味がするのでしょうか。一度作ってみたいと思いながらも、なかなか行動に移せずにいます。試したことがある方は、是非話をお聞かせください。

※ 東京薬科大学「CERT」による「植物」の研究記事はこちら。