東薬植物記

世界一高価なスパイスサフラン

三宅 克典

薬食同源という言葉をご存じですか? 食べ物と薬の境界は極めて曖昧です。そして、スパイスは食べ物なのか薬なのかと問われると困ってしまいます。シナモンと生薬の桂皮は一部を除きほぼ同じものですし、カレーなどに用いるクローブと生薬の丁子は同一です。ターメリックと鬱金、フェンネルと茴香(小茴香)など枚挙に暇がありません。今回の題材のサフランも、スパイスだけではなく薬としても利用されるものです。

サフランとは一般にはアヤメ科の植物のサフラン(Crocus sativus L.)の柱頭のことを指します。属名のCrocus が示す通りクロッカスの仲間で、一般的なクロッカスが春に開花するのに対し、サフランは秋に開花します。いわゆる球根の薬用植物であり、ちょうど東薬祭のころに開花するので、来園者へのお土産にしばしば採用されます。

生薬としては、サフランあるいは番紅花と呼ばれ、単味あるいは芍薬・川芎などの生薬と配合して用いられます。通経作用を有し、専ら婦人病の薬として扱われています。

サフランのスパイスとしての利用法で真っ先に思いつくのはパエリアではないでしょうか。現在、1gあたり1000 円程度で流通しており、世界で最も高価なスパイスの一つです。ただ、雌しべを一本一本摘むことを考えると、高価なのも納得できますね。

サフランはその価格ゆえ、粗悪品や偽物が多く流通しています。主要な産地であるイランにほど近いウズベキスタンで、バザールの野菜や生薬を調査していると、必ずと言ってよいほど「サフランを買わないか」と声をかけられます。それらのほとんどはサフランではなくサフラワー、すなわちベニバナの花です。もちろん、サフランは雌しべなのに対し、サフラワーは頭花なので、簡単に偽物だとわかり購入することはないのですが、言葉に騙されず、モノを見る力が必要だと感じさせられます。