東薬植物記

ただの果物にあらず、
ミカンの効能

三宅 克典

みかんに代表される柑橘類は、果物や調味料として生活に欠かせない存在になっています。近年、遺伝子解析によって主要な柑橘類の系統関係がわかってきました。それによると、いわゆる「みかん」のウンシュウミカンは、中国のキシュウミカンとクネンボ(キシュウミカンの子)の交配でできたそうです。また、カボス·スダチはともにユズが片親といった予想通りの内容もあれば、ダイダイはレモン由来という意外な関係も見出されていました。


柑橘類由来の生薬として重要なものに陳皮(チンピ)があります。これはウンシュウミカンの果実の皮を加工したもので、七味唐辛子の原料にされることもあり、知らず知らずのうちに口にしているかもしれません。陳皮の「陳」の字は古いことを示し、古いものほど効能が優れているとされています。中国医学では行気薬に分類され、香りで胃腸の調子を整える作用が知られています。一般に、香りの成分は揮発しやすいものが多いので、古いと大切な香りが無くなってしまうようにも思えます。ところが、香港の生薬街の店先で見かけた外側が黒ずんでいる古い陳皮は、予想に反して驚くほどの強烈な香りを有していました。

陳皮には様々な類似生薬があります。果皮の白色の部分(アルベド)を橘白(キッパク)、橙色の部分(フラベド)を橘紅(キッコウ)として使い分けることがあります。また、未熟果実の果皮は青皮(セイヒ)で、作用が強く、薬効も少し異なるとされています。

一方、果皮以外にも様々な部分が薬用にされます。果実の皮をむくとふさの袋にある白い網の目状の線維管束は橘絡(キツラク)で咳の痰をとり、種は橘核(キッカク)で痛み止め、葉は橘葉(キツヨウ)としてストレスで脇腹が張るようなときに他の生薬と用いられます。可食部は…、美味しく味わっていただきましょう。ただし、糖質の取りすぎにはご注意を。