東薬植物記

カタクリ

三宅 克典

植物園の春は、冬の花の少ない期間に終わりを告げて、新しいシーズンが始まる特別な季節です。中でも春先の主役と言えばスプリングエフェメラル、春の妖精です。春の妖精は、冬の終わりから初夏頃まで地上に顔を出しその後は地中で休眠する宿根草のことで、フクジュソウやイチリンソウの仲間をはじめとして多くの種類があります。中でも群を抜いて人気があるのは、ピンクの反り返った花をつけるカタクリではないでしょうか。

カタクリは日本各地の林内に生える多年草です。日本以外では中国、朝鮮半島、サハリンなどで見られます。現在、群生地は観光地化しており、一部は町や市の天然記念物に指定されています。種から花をつけるまで7、8年かかり、一度失われるとなかなか元に戻らないので、是非とも大切にしたいものです。

カタクリの名から片栗粉を連想するのは決して間違っていません。かつてはカタクリの根を用いて精製したデンプンを「片栗粉」と呼んでいたようです。実際に、薬の公定書である日本薬局方には、1930年頃まで「澱粉」にカタクリに由来するものが規定されていました。現在の「片栗粉」はジャガイモやサツマイモ由来のデンプンが用いられています。本来の「片栗粉」を食べてみたいのですが、生長に要する年月を考えるとなかなか難しいですね。

江戸後期に書かれた薬物書の『和蘭薬鏡』では、カタクリやその仲間の薬用について「乾いた根をつき砕いて乳汁で煮れば、味は良く滋養強壮に優れていて老人の弱っているのにも効果がある」と紹介されています。今ではなかなか考えられないことですが、古くは野山にたくさん生えていて、今ほど貴重ではなかったのでしょう。

本学薬用植物園内にもカタクリが多く生えている場所が数か所あり、例年3月中旬~4月上旬に見ごろを迎えます。可憐な姿を是非ご覧ください。