東薬植物記

美しいトリカブト毒と薬

三宅 克典

美しい花には棘がある、よく知られたことわざですが、実際には棘にとどまらず毒があるものも多くあります。毒薬変じて薬となるとはよく言ったもので、毒は生理活性が高く、利用法によっては薬になるものが多くあります。今回の題材である美しい花のトリカブトはまさに典型例です。

トリカブトという名前の植物は存在せず、一般的にはキンポウゲ科トリカブト属の植物のことを指します。本属の植物の多くに見られる特徴として、地下部のいわゆる親芋に相当する塊根(母根)から新たな塊根(子根)ができ、それが次の年の母根になるというサイクルの擬似一年草であることがあげられます。

一方、トリカブトといえば毒草という印象があるかもしれませんが、事実、非常に毒性が高いアコニチンなどのアコニチン系アルカロイドを植物全体に含有しています。その塊根(子根)は附子(ブシ)とよばれる生薬にされますが、そのままでは作用が強すぎるため、一般には、安全に用いるために加工を施します。古くは木灰や石灰をまぶしたり塩漬けにしたりしていましたが、現在は高圧釜で加圧加熱をするのが普通です。この加熱によりアコニチンなどは毒性の低い化合物に変換されます。附子にはこれら有毒成分の含量の上限が規定されているため、過度の心配は無用です。

附子は鎮痛・強心・新陳代謝機能亢進・利尿などの薬効で知られる生薬で、八味地黄丸・真武湯などの漢方薬に配合されます。また、体を温める作用が強く、冷えを伴う症状を対象にした漢方薬に用いられます。

ただし、減毒されているといえ作用の強い生薬ですから、附子を含む漢方薬は専門家の指導の下で安全に利用するのが良いでしょう。また、附子にはドーピング規制物質のヒゲナミンという化合物が含まれていますので、アスリートの方は附子を含有する漢方薬にご注意ください。

※ 東京薬科大学「CERT」による「植物」の研究記事はこちら。