東薬植物記

漢方でも食品でも大活躍、
カンゾウ

三宅 克典

かつて甘いものはとびきりのご馳走でした。狂言「附子」では、猛毒の附子(トリカブトの塊根)を引き合いに水あめの貴重さが表現されています。現代では甘いものが簡単に手に入りますし、トマト・サツマイモなどの甘い品種には驚きすら覚えます。一方で、糖尿病患者数は増加しており、糖質との付き合い方を考え直すときが来ているといえるでしょう。そこで注目されるものとして、摂取しても熱量に変換されない甘味料があげられます。今回はそのような性質を有する天然甘味料の代表格、甘草のお話です。


甘草は、マメ科のウラルカンゾウ・スペインカンゾウの根・ストロン(地中を水平方向に延びる茎)が原料です。ひとたび根を咬むと甘味と独特の風味が口に広がります。甘草の代表的な甘味成分であるグリチルリチン酸は、トリテルペン骨格を有し、カロリーゼロにも関わらず砂糖の300倍もの甘味を示すとされています。その甘味は砂糖に比べ少し遅れてやってくるため、味噌・醤油やスナック菓子に用いて味に奥行きを持たせるようです。是非、色々な食品の成分表示を見てカンゾウ抽出物などの名を探してみて下さい。

甘草は、漢方薬に配合される機会が最も多い生薬でもあり、頻用処方のおよそ7割に用いられています。甘草含有成分には炎症を鎮める効果が知られていますが、加えて、作用の強い生薬同士を調和させるような役割があるとも言われています。

一方で、多用されるゆえの問題もあります。副作用が無いと思われがちな漢方薬・生薬ですが、大量の甘草の摂取により偽アルドステロン症という副作用が発症することがあります。そのため、複数の漢方薬の併用時は含有生薬の確認が欠かせません。市販の風邪薬の中にもグリチルリチン酸が含まれるものがあるため要注意です。

甘草は世界各地で大量に消費されています。その供給は野生品の採取に依存していましたが、資源状況はあまり芳しくありません。持続可能な利用のためにも、栽培化や再生可能な採取法の開発などを進めて、資源問題に取り組んでいかねばなりません。