ここ四十年の遺伝子解析技術の進歩により、植物の分類は大きく変わりました。特にユリの仲間(ユリ科)の変更は著しく、日本で一般的に用いられていた古い分類体系(新エングラー)で約3500種とされていたものが、新しい分類体系(APGIV)では約700種になり、残りは他の科に組み換えられました。
新しい体系にはなじみが薄い科名が多く出てきて混乱する一方で、わかりやすくなった点もあります。旧ユリ科には有毒な植物も多く含まれていましたが、それらの多くはイヌサフラン科やシュロソウ科、そしてヒガンバナ科という代表的な毒草の名前の科にまとめられました。そして、ネギの仲間も組み込まれたものの一つです。
ネギは最新の分類でヒガンバナ科ネギ属に含まれます。ネギ属は世界中に920種が知られていて、多くが食材や薬味、あるいは薬として利用されています。たとえば、新鮮なネギの白い葉鞘は「葱白」と呼ばれる生薬で去痰・解熱作用が、ラッキョウの鱗茎は「薤白」で健胃整腸作用が、ニンニクの鱗茎は「大蒜」で健胃・発汗作用が、ニラの種子は「韮子」で止瀉作用が知られています。これらネギ属の植物は独特な成分群を含有し、ニンニクやニラなどの独特の風味のもとにもなっています。
ところで、体質によってネギの仲間は毒になることがあるのをご存知ですか。ネギやタマネギを犬猫に食べさせてはいけないことは良く知られていますが、ヒトでも私のように体調を崩すことがあります。特に、ニンニクはかつて虫下しの薬として用いられたほど作用が強く、ラーメン上の山盛りのニンニクには危うさを覚えます。特定の料理やラーメンを食べて調子が悪くなるようでしたら、ネギ属植物の影響を疑ってみるのも良いかもしれません。また、ギョウジャニンニクと間違えて高確率で死に至るイヌサフランを誤食する例が後を絶ちません。花壇と菜園は分ける、同定に自信が無いものは食べないなどの原則を守ることが重要です。
(2025 SPRING CERT11より)