若⼿研究者コラム

きっかけ

山城海渡

この写真は、水俣病の原点の地である百間排水溝です。先日、金属毒性がテーマの学会で水俣を訪れるきっかけがありましたが、10年前の私からすると、金属毒性の研究をするなんて思いもしませんでした。

「手に職をつけたい」。当時高校生の私は薬剤師の仕事内容もよく知らないまま、薬学部への進学を決めました。母校は大学3年生の後期から、研究室配属が始まります。同期は「がんの研究がしたい」など熱い想いをもって配属先を希望しておりましたが、私はこれといってやりたいことはなく、当時一番得意であった公衆衛生学の研究室を希望しました。メインテーマは、毛髪中のミネラル濃度を測定し、疾病との関連性を検討するものであり、進めていくうちにこのテーマの面白さに気づくことができました。研究を進めていく過程で、メインテーマにあまり関連がない研究に取り組むきっかけがありましたが、当時の私はそんなことをしている時間は無駄ではないのかと考えていました。結局のところ、関連がない研究に取り組むことになりましたが、今となっては良かったと感じています。

そこから私は、一見関係がないような事柄にも積極的に関わっていくようになりました。研究に関しては、メインテーマに加え、大学生の生活習慣の調査や水環境からの重金属の除去、薬剤の副作用の研究などに取り組みました。初めのうちは、きっかけを与えてくださった先生や周りの方への感謝を込めて精力的に取り組んでいたつもりでしたが、今となってはすべて自分を成長させるきっかけであったと同時に、取り組んで良かったと心から思います。

「人生に無駄はない」。読者の方もこの言葉を様々な場面で聞いてきたかと思います。当時大学生であった私は、効率よく成果を出すことに注力していたことから、この大切なことを忘れていたような気がします。知識の少ない当時の私には、なんのつながりも見えていませんでしたが、今改めて考えるとそれぞれがすべてつながっていると感じました。

大学院を修了した頃、ご縁がありまして2024年の4月から東京薬科大学薬学部公衆衛生学教室に着任し、メチル水銀や水銀化合物の毒性を研究しています。今は過去とのつながりの見えない日々を送っていますが、いつかつながることを信じながらこのきっかけに感謝し、一生懸命に研究を展開していきたいと思います。

(2025 SPRING CERT11より)

投稿日:2025年09月05日