名誉教授コラム

真核生物の誕生

山岸明彦

真核生物の細胞には核があり、ミトコンドリアや葉緑体(植物)、小胞体、ゴルジ装置、液胞(植物)等の細胞小器官がある(図:細胞模式図)。原核生物(真正細菌と古細菌)の細胞には、これらの細胞小器官がない。真核生物は、細胞の大きさとゲノムが原核細胞に比べて千倍ほど大きい。真核生物の細胞がどの様に誕生したのか、まだよく分かっていないことが多いが、分かっている範囲で解説する。

真核生物の祖先
今から20億年前頃に、真核生物はアスガルド古細菌という古細菌の祖先から誕生したと推定されている(名誉教授コラム「全生物の進化系統樹」)。真核生物は真核生物特有の遺伝子をもっている。これら真核生物特有の遺伝子のいくつかが、アスガルド古細菌の中に見つかった(Spang, A., et al. 2015)。つまり、真核生物の遺伝子のいくつかはアスガルド古細菌由来だ。

ミトコンドリアと葉緑体の細胞内共生
真核生物の細胞小器官の中で、最もよく分かっているのが、ミトコンドリアの由来である。ミトコンドリアは、アルファプロテオバクテリアという真正細菌の祖先が、真核生物の祖先に細胞内共生して誕生した(総説はYokobori and Furukawa 2019)。

ミトコンドリアに関していくつかのことが分かっていた。ミトコンドリアは、二枚の膜に囲まれている。内側の膜は共生した原核生物の膜、外側の膜はそれを取り込んだ真核生物の膜由来と解釈できる。ミトコンドリアは、専用のDNA、タンパク質合成系をもっている。ミトコンドリアは専用の分裂装置をもっていて、分裂できる。つまり、ミトコンドリアは真核生物細胞の内にありながら、独立した生物の様な性質をもっている。

最終的に、細胞内共生説を裏付けたのが、ミトコンドリアDNAの配列である(Yang et al. 1985)。ミトコンドリアDNAの配列は真核生物の核の遺伝子には似ていず、真正細菌、中でもアルファプロテオバクテリアという種類に最もよく似ていた。このことは、アルファプロテオバクテリアが細胞内共生することによってミトコンドリアが誕生したということを裏付けている。

葉緑体に関しても同様のことが分かっている。葉緑体はシアノバクテリアの細胞内共生によって誕生した。それ以外の細胞小器官の由来は分かっていない。

真核生物がなぜ大きなゲノム(DNA)を持つようになれたか
真核生物は原核生物に比べて、千倍ほど大きな(種による差は大きいが)ゲノムをもっている。例えば、人のゲノムDNAは2メートル程の長さがある。これを折り畳んで、0.1mm以下の大きさの細胞に入れるだけでも大変であるが、細胞分裂時には2組のゲノムDNAの一組ずつを二つの娘細胞に分配する。この仕組みが真核生物で誕生した。

また、原核生物のゲノムDNAは環状で末端がないが、真核生物のゲノムDNAは線状で末端がある。真核生物のゲノムDNA(染色体)末端はテロメアという構造になっているが、これも真核生物特有の構造である。

こうした、真核生物特有のゲノムDNA構造や細胞分裂の仕組みがどの様に誕生したか不明である。

真核生物がなぜ大きな細胞を持つようになれたか
大きな細胞を維持するために、細胞内輸送系がある。チューブリン線維の上をダイニンというタンパク質が他のタンパク質を結合して移動させている。アクチン線維とミオシン線維という繊維が細胞の形を変えることに寄与している。

原核生物もアクチンやチューブリンに似たタンパク質をもっている。したがって、真核生物誕生時にその性質が変わり、これらの機能を持つようになったはずであるが、その経緯は不明である。

真核生物の様々な遺伝子の由来
さて、真核生物はアスガルド古細菌由来とアルファプロテオバクテリア由来、さらにシアノバクテリア由来の遺伝子をもっている。しかし、真核生物の遺伝子を調べた結果、アスガルド古細菌以外の多種の古細菌(ユーリ古細菌等)とシアノバクテリアとアルファプロテオバクテリア以外の多種の真正細菌(ガンマプロテオバクテリア、デルタプロテオバクテリア等)からも、多数の遺伝子が真核生物に来ていることが分かった(Thiergart et al. 2012)。アスガルド古細菌やアルファプロテオバクテリア、シアノバクテリア以外の原核生物が、細胞融合したのか、あるいはウィルス等によって遺伝子が運ばれたのか、それがどの様な出来事だったのか分かっていない(Furukawa et al. 2017)。

つまり真核生物は、アスガルド古細菌の祖先がもとになり、それにアルファプロテオバクテリアが細胞内共生してミトコンドリアになったこと、シアノバクテリアが細胞内共生して葉緑体になったことははっきりしている。そして真核生物は、アスガルド古細菌以外の古細菌と、アルファプロテオバクテリアとシアノバクテリア以外の真正細菌から多数の遺伝子を多数受け継いでいる。しかし、どのような経緯でこれらの遺伝子を受け継ぐことになったのか、その他の真核生物特有の性質獲得の経緯は不明である。

引用文献
Furukawa, R. et al. (2017) J. Mol. Evol. 84, 51–66.
Spang, A., et al. (2015) Nature 521, 173–179.
Thiergart, T. et al. (2012) Genome Biol. Evol. 4, 466–485.
Yang et al. (1985) Proc. Natl. Acad. Scie. USA. 82
Yokobori, S. and Furukawa, R. (2019) Eukaryotes appearing. In "Astrobiology: From the origins of life to the search for extraterrestrial intelligence" (eds. A. Yamagishi, T. Kakegawa and T. Usui.), Springer, Singapore, pp. 105-121.

参考図書
山岸明彦(2023)元素で読み解く生命史. 集英社.

投稿日:2026年02月03日
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