CERT06植物・天然物

マメ科植物の
イソフラボンから
がん治療に役立つ
活性を発見

生薬、ハーブ、観賞用植物からがん細胞を退治する化合物を探る

有機合成化学の進展によって、植物や微生物といった天然物から薬が創られることは少なくなったと考えられがちだが、実は今も天然由来の化合物から多くの新しい医薬品が生み出されている。例えば2014年までの30年余りの間に米国食品医薬品局(Food and Drug Administration: FDA)で承認された抗がん剤のうち、実に30%以上が天然由来の化合物とその誘導体から創られているという。「天然化合物の構造は多様性に富み、豊かな生物活性を持つものも少なくありません。天然物から新しいがん治療薬のシーズを探索することは、今なお意義あることだと考えています」。そう語る横須賀 章人准教授は、生薬やハーブ、あるいは観賞用植物などの高等植物から、これまでにない作用メカニズムでヒトのがん細胞を退治する化合物を探っている。これまでに300種類近くの新規化合物を発見し、構造を決定してきた。その成果の一つに、マメ科植物から新しい抗腫瘍活性を持つイソフラボンを見出した研究がある。

着目したのは、アテレイア・グラジオビアナ(Ateleia glazioviana)というブラジル産のマメ科植物だ。この植物の葉から抽出したエキスがヒト白血病細胞(HL-60)に対して強い細胞毒性を示したことから、横須賀准教授は活性成分の分離・精製を試みた。細胞増殖抑制活性試験(MTT法)を経て、5つの化合物を単離し、構造を決定。「そのうちHL-60に対して最も強く細胞増殖抑制活性を示した一つが、まだ知られていない新規のイソフラボンであることが判明しました」。横須賀准教授はこの新規化合物をグラジオビアニン(glaziovianin)Aと名づけた。

新規化合物グラジオビアニンA
未知の作用機序の抗腫瘍活性を発見

続いて、グラジオビアニンAについて(財)がん研究会のパネルスクリーニングを行い、ヒト白血病細胞以外に39種類のヒトがん細胞に対しても十分低い濃度で活性があり、高い感受性を示すことを確認した。

「さらにCOMPARE解析によって薬剤感受性パターン(フィンガープリント)を既存の抗がん剤や抗腫瘍活性物質と比較したところ、チューブリンを分子標的とする抗がん剤と活性スペクトルが似ていることが分かりました」と言う。チューブリンは微小管を形成するタンパク質の一種だ。細胞分裂の際には微小管が束になって紡錘体ができる。このことから横須賀准教授は、グラジオビアニンAが作用するのは微小管だろうと予測し、ラット繊維芽細胞を使って検証した。「グラジオビアニンAを投与すると、細胞分裂期に微小管の伸縮が阻害され、異常な多極紡錘体が形成されました。既存の微小管阻害剤であるcolchicineでは微小管が破壊され、紡錘体が形成されません。つまりグラジオビアニンAはcolchicineとは異なる作用メカニズムで、細胞分裂を止めていると考えられます」。グラジオビアニンAは、現在使われている微小管作用薬や微小管ダイナミクス阻害剤とは異なるメカニズムで微小管ダイナミクスに作用し、がん細胞の増殖を抑える新しい抗腫瘍活性物質といえる。イソフラボンは骨粗しょう症治療薬などに使われた例はあるが、抗腫瘍活性があることは横須賀准教授の研究で初めて明らかになった。現在は後続研究も進んでいる。

観賞用植物から腫瘍細胞毒性物質を単離

また横須賀准教授は、主に観賞用として流通している植物の中からも腫瘍細胞毒性物質を探索している。リュウゼツラン科のアガベ・ユタエンシス(Agave utahensis)という多肉植物の全草から30種類以上もの多様なステロイド配糖体を単離し、その中からHL-60細胞をアポトーシスに導く5β-スピロスタノール型ステロイド配糖体(AU-1)を見出したのも、横須賀准教授の研究グループだ。「ステロイド配糖体による細胞死は、細胞膜が破壊されることによるネクローシスが一般的とされてきました。アポトーシス型の細胞死を誘導するステロイド配糖体の発見は極めて珍しいといえます」。

さらに横須賀准教授らは、リュウゼツラン科のユッカ・グラウカ(Yucca glauca)の地下部からもHL-60に細胞毒性を示す5β-スピロスタノール配糖体(YG-1)と5β-フロスタノール配糖体(YG-16)を単離している。この2つはステロイド骨格のF環部分が異なるだけの極めて類似した構造を持っており、細胞毒性も同程度。いずれもAU-1と同様カスパーゼ3の活性化を伴ったアポトーシス型の細胞死を誘導することがわかったが、細胞死までの時間はYG-1が6時間、YG-16が16時間と大きな開きがあった。「F環の有無がアポトーシス誘導の作用機序に関係しているのだろう」と横須賀准教授は考察している。

最近では、クリスマスローズとして知られるキンポウゲ科ヘレボルス・フェチダス(Helleborus foetidus)やヘレボルス・リビダス(H. lividus)から、強力な腫瘍細胞毒性を示す新規ブファジエノライド誘導体を数十種類も単離し、構造決定したことを報告。「これまで知られていたのとは異なる作用メカニズムで腫瘍細胞毒性を示す可能性がある」と期待を膨らませる。ヘレボルス・リビダスから単離したブファジエノライド誘導体の一つが、ミトコンドリアを経由してカスパーゼ9を活性化し、アポトーシスを誘導することも明らかにしている。

こうした数々の成果から将来、新たな抗がん剤が生まれることを期待したい。

構造未知化合物の構造決定プロセス エタノールで抽出濃縮エキスを調製 クロマトグラフィーで分離 単離された物質(白色粉末) 核磁気共鳴 (NMR) スペクトル測定装置による構造解析
投稿日:2023年04月19日
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