学生によるサイエンスコミュニケーション

生命の始まりから未来を知る

生物工学研究室(応用生命科学科)
写真:横堀伸一准教授

生命の起源やその進化を研究するには、膨大な時間と資金が必要ですが、こうした研究は生命科学の礎として必要不可欠なものです。

同研究室の横堀伸一准教授は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)との共同研究である「たんぽぽ計画」を通して、生命の起源や地球外の生命を探究しています。宇宙規模の生命探査は一体、私たちに何をもたらすのでしょうか。

たんぽぽ計画とは?

もともとは、地球の成層圏に微生物が存在するかどうかを調べていました。極限環境で生きられる生物を研究するためには、高空だけでなく宇宙でも実験を行う必要があり、2007年にたんぽぽ計画が始まりました。

2015年からは、400km上空の国際宇宙ステーション(ISS)で1〜3年間、放射線耐性微生物を宇宙曝露し、回収・分析しました。これまでの実験では、微生物を宇宙へ打ち上げる前と後の生育状態しか分かりませんでしたが、宇宙曝露期間を変えて微生物の生存や死滅の様子を調べることで、宇宙で何年間生き延びられるかを推定できました。こうした成果が得られたのは、ほぼ初めてのことでした。

極限環境で生きる生物を研究する上での困難とは?

ISSの周辺で微生物を捕まえる計画も立てました。しかし、地球由来の微生物はまだ捕えられていませんし、その確率は低いです。地球外生命の発見が期待されたこともありますが、その形も、私たちのようにDNAやRNA、塩基のAGCTを持っているかも不明ですから、地球外生命がいたとしても多分気づかないでしょう。

以上のことから、すでに知られている生物について、宇宙空間での生存限界を明らかにすることを目的に実験を行う方が確実だと考え、ISSで地球上の微生物を宇宙曝露しました。今後は、ISSよりも遠くの場所で地球外生命を調査する実験も検討中です。

横堀准教授が、生命の起源や進化を研究する理由は?

私は、古代生物のタンパク質を復元して全生物の共通祖先を探る研究も行なっています。私の研究は、いわゆる「歴史」を追いかけているといえます。孫子などの紀元前の人の教えは現代でも参考になりますし、昔起こったことは繰り返される可能性があります。生命の起源という過去を知ることで、これから起きることを知りたいと考えています。

「生命起源の追究」は、基礎研究の最たるものです。多くの時間やプロセスが必要なため、何に役立つかをすぐに述べるのは難しいです。しかし、もし地球外に生命が見つかれば、地球生命とは何か、人類とは何かといった、哲学的な考え方を変える可能性があります。

生命科学における、生命の起源の研究の位置づけとは?

細胞内には多種多様なタンパク質や酵素がありますが、そのいくつかは祖先が一緒です。それらが分化していく過程で多細胞生物が複雑な生き方を手に入れたと考えると、歴史をさかのぼって最もシンプルな生物やそれに近いシステムを理解するための研究は、生命科学という学問の礎ではないでしょうか。生命の起源の探求をはじめ、生命科学のさまざまな基礎研究の成果があることで、今日の課題の解決を目指す応用研究が進歩するのだと思います。

ありがとうございました。

 

※本記事は授業「生命科学ゼミナールⅡ(サイエンスコミュニケーション入門)」の一環として、学生が取材、執筆を行いました。