若⼿研究者コラム

染色体工学の起こすミクロな革命
MMCT法の大きな可能性

宇野 愛海

私の研究の中核を成す技術は、微小核細胞融合法(Microcell-mediated chromosome transfer:MMCT法)です。この方法では、微小核*細胞を介して、任意の染色体を哺乳類細胞から取り出し、目標とする他の哺乳類細胞に導入することが可能です。驚くべきことに、この技術では最大100 Mbps(約1億塩基対)の遺伝情報を導入できます。これは、一般的なプラスミドや遺伝子導入用ウイルスベクターを使用した方法で導入可能な10 Kbps(約1万塩基対)と比べて、実に1万倍の情報量です。私は卒業研究を始めるにあたり、これならどんなに複雑な遺伝子改変も可能になると感じ、このMMCT法に魅了されました。

哺乳類細胞や動物の遺伝子改変では、数十Kbpsから数Mbpsに及ぶ広範囲な遺伝子制御領域がしばしば必要です。MMCT法は、このような大規模な遺伝情報を細胞に導入するのに非常に効果的です。しかし、この方法は導入効率が約0.001%と低く、実験手法も複雑です。修士課程での私の研究では、細胞を初期化する山中4因子を搭載したヒト人工染色体ベクターをマウスやヒト線維芽細胞に、MMCT法で来る日も来る日も導入し、ようやくiPS細胞の作製に成功しました。この研究には5年もの歳月が費やされ、この間に様々な研究グループからiPS細胞の新規作成法が報告されました。世界との競争の真っ只中にいるという感覚は、私にとって研究に没頭するモチベーションを与えてくれましたが、結果としては、iPS細胞作製競争に敗れました。やはりMMCT法の導入効率が低すぎたのです。

この苦い経験を踏まえ、私と私の所属研究グループはMMCT法の効率と利便性の改善に取り組みました。その結果、導入効率は当初の100倍、0.1%にまで向上し、実験所要時間も大幅に短縮されました。ヒトiPS細胞から別の細胞へと染色体を導入可能な新規手法も確立されつつあります。この技術は、ゲノム編集技術と組み合わせることで、さらに応用の幅が広がります。特に、ヒトゲノム領域保持モデル動物の作製法としては非常に有用です。

Mbpsに及ぶ染色体規模の遺伝子改変を含む研究は、今や黎明期を迎え、デザイナー染色体やデザイナー生物等を冠する、新しい生物を創造するゲノム合成研究が盛んに行われています。私は、様々な新規技術を用いてMMCT法を研鑽し、ゲノムデザインを含む独自研究領域の確立を目指します。

*哺乳類細胞は通常1つの核を持つが、特殊な培養条件に置くことで、1~数本の染色体を保持する微小な核が複数出現する。
図 引用:Narumi Uno., et al., Treatment of CHO cells with Taxol and reversine improves micronucleation and microcell-mediated chromosome transfer efficiency. Molecular Therapy Nucleic Acids. 2023 Jul 15:33:391-403. doi: 10.1016/j.omtn.2023.07.002.