名誉教授コラム

宇宙人はいるか

山岸明彦
 右図:"Space - Messier Galaxy" by Trodel is licensed under CC BY-SA 2.0.

宇宙人はいるか?答えは簡単で、「分からない」というのが唯一の正しい答えである。ただし、だれしもおそらく「いて欲しい」と願っていたり、「いて欲しくない」と願っていたりする。また、人によって「いないだろう」と漠然と思っていたり、「いるに決まっている」と思い込んでいたりするかもしれない。

結論はまだないが、多くの研究者達がこれまで、地球外生命や地球外知的生命がいるかどうかの議論をしてきた。研究者によってその思いは様々であるが、大きく分けて二通りの答えがある。

地学者と生物学者

多くの地学者は地球外知的生命の存在には懐疑的である。地学者は、地球の特殊性に目が行く。地球は岩石惑星であるが、表面には海がある。海のおかげで、地球の温暖な気候が保たれている。ところが地球の海洋は,地球質量の0.023%に過ぎない。もし水の量が多すぎれば地球の表面が完全に海におおわれてしまう。もし水の量が少なすぎれば海は無くなる。この絶妙な量の水がどの様に地球にもたらされたのか分かっていない。

地球ができたばかりの頃の太陽は、今の70%ほどの明るさしか無かった。太陽からの距離を考えると、温暖化ガスが無い場合には、地球は凍結してしまう。しかし当時、適度な濃度の温暖化ガスが保持されて適度な温度が保たれた。46億年の地球史で地球全体が凍結した時期が三回あったが、それ以外の時期、地球は温暖に保たれていた。こうした絶妙な地球環境で、生命が進化してきた。この様な条件がどの様な惑星でも実現するとは思えない。

また、生物学者はヒトをはじめとする様々な生物がどの様に生きているのか、その詳細な解析を進めている。生物の持つ、遺伝子は極めて微妙な性質をもち、それらの総合的な調和によって生命を維持している。遺伝子の働きによって生物は生き、増殖して、変動する地球環境に、40億年間適応してきた。多くの生物学者は、この様な複雑な仕組みが誕生して生命が永続してきたことは奇跡に近いと考えている。

天文学者と物理学者

一方、天文学者と物理学者の多くは、宇宙に知的生命がいない理由は無いと考えている。宇宙のどこでも、物理法則は同じである。太陽系は天の川銀河に属するが、天の川銀河のどこでも各種元素の存在比率はほぼ同じである。天の川銀河には数千億個の恒星がある。太陽と同じタイプの恒星はそのうちの1割ほどで、数百億個存在する。天の川銀河のどの恒星も惑星をもち、1割ほどの恒星には地球に似た惑星があることも分かってきた。つまり天の川銀河には太陽に似た恒星を周回する地球に似た惑星が数十億個あると推定される。地球に誕生した生命が、なぜ地球に似た惑星に誕生しないのであろうか?

誕生した生命の一部が光合成を行えば、最も大量にある水素源として水を使って炭酸固定を行い、その廃棄物として酸素を大気中に蓄積していくことは必然ともいえる。その酸素を使って動く生物、動物が誕生することも、動物が動く中で知的な行動様式を高めていくことも必然と思われる。地球が特別であるという理由は見当たらない。他の恒星系の惑星で、なぜ知的生命が誕生しないのか?

地球外知的生命の数

今から半世紀ほど前、ドレイクという研究者は、知的生命の数を推定する計算式を提案した。このドレイクの式では、天の川銀河の中にある生命生存可能な地球型惑星の数をもとにして知的生命の数を推定する。つまり、生命生存可能な地球型惑星の数、そこに生命が誕生する確率、その生命が知的生命に進化する確率、それが技術文明をもち交信する確率を掛けて、銀河系にこれまでに発生した知的生命の総数を計算する。ただし、誕生した技術文明が寿命をもっていれば、誕生した文明も現在は絶えてしまった可能性もある。そこで知的生命の総数に、技術文明の平均寿命を銀河系の寿命で割ったものを掛けて、現在存在しうる地球外知的生命の数を推定する。

天の川銀河の中にある地球外知的生命の数をこれまで何人かの研究者が推定してきた。その数は0、つまり地球以外には知的生命はいないという推定、から百万個まで大きなひらきがある。ただし、推定の中心値をとると40万個という数になる。40万個の知的生命が天の川銀河に均等に分布しているとすると、地球からもっとも近い文明は200光年ほどの距離にあることになる(生命起源の事典、2024年、朝倉書店)。もちろん、良く分かっていない数字の掛け算でこの数をもとめているので、推定は10倍、100倍違っているかも知れない。この数字の信頼度を上げるためには、物理学、天文学、地学、生物学、社会学の研究が必要である。

地球外生命の通信電波の探知

一方、この推定が合っているかどうかを調べるために、地球外の知的生命が通信に使っているかも知れない電波を、電波望遠鏡で受信しようという計画が行われている。知的生命が高度な文明に達すれば、通信手段として電波を使っているはずだからである。現在、巨大な電波望遠鏡システムSKA(Square Kilometer Array)の建設が始まっている。SKA計画は天文学や物理学などのいくつかの研究を目的としている。その研究の一部として地球外知的生命から漏れ出ている電波の探査が行われる計画である(生命起源の事典、2024年、朝倉書店; 山岸明彦 編著、アストロバイオロジー、2013年、化学同人)。