CERT01大学と研究

発電する微生物が
生み出す
次代のクリーンエネルギー
微生物燃料電池を開発する。

発電する微生物で燃料電池を開発

地球規模で環境・エネルギー問題が深刻化する現代、石油や石炭などの化石燃料や原子力に代わるクリーンなエネルギーとして、太陽光や風力、バイオマスなどの新たなエネルギー資源の活用が進んでいる。その中で近年関心が高まっているのが、バイオマスを燃料とする微生物燃料電池である。

微生物燃料電池は、微生物の代謝を利用して有機物を電気エネルギーに変換する装置のことだ。「発電する微生物の存在はおよそ100年前から知られていましたが、2000年代初め、シュワネラ菌に代表されるように、有機物を分解して発電する発電菌と呼ばれる微生物が発見されたことで、一気に研究が加速しました」。そう語る渡邉一哉教授は、いち早くこの微生物の活性に着目し、微生物燃料電池の研究で世界をけん引している。

通常微生物は、有機物を酸化分解する際に電子を発生し、それを外界から取り入れた酸素に渡すことでエネルギーを得る(酸素呼吸)。酸素がなければ、当然電子を渡すことができず、エネルギーを取り出すことはできない。ところが発電菌は、有機物を分解する際に発生する電子を体外へ放出する機能を持っており、酸素がなくても有機物からエネルギーを取り出すことができる。渡邉教授はこの発電菌を利用した微生物燃料電池の開発に取り組んでいる。その用途として最も実用化に近づいているのが、生活排水や工業廃水などの汚水処理への適用だという。

電極上の発電菌シュワネラ

省エネ汚水処理において実用化が迫る

「現在、下水処理場での汚水処理には、微生物を使った活性汚泥法が広く用いられています。この方法で使われる微生物は、汚水中の有機物を分解する際に酸素を必要とするため、処理には水中に酸素を送り込む曝気が必要です。この曝気は大量の電力を必要とする上に、電力供給が止まると処理できなくなるという問題を抱えています。発電菌を用いた微生物燃料電池なら、これらの課題を解決できます」と渡邉教授は語る。

カセット電極

教授らは、絶縁膜を挟んで負極と正極を一本化したカセット電極を作成し、汚水処理に適した微生物燃料電池を開発した。汚水の入った反応槽にカセットを挿入し、発電菌によって汚濁廃水の有機物を分解するとともに、微生物から放出された電子を負極で回収し、カセットを通じて正極に伝えて発電する仕組みだ。曝気に必要な電力量を削減できるだけでなく、発生したエネルギーを電気として取り出してしまうため微生物の増加も抑えられ、余剰汚泥の量も削減できる。

実験室では、活性汚泥法と同等の有機物の処理速度を確認しており、現在は、実用化に向け、企業でスケールアップの技術開発が進められている。早ければ数年以内に実用化される可能性もあるという。「全国の下水処理場で使われる電力量は、日本の総電力使用量の約1%にのぼるといわれています。私たちの開発した微生物燃料電池が取って代われば、社会にとってもインパクトのある省エネ効果を生み出せます」と渡邉教授は言う。

一方で微生物燃料電池は、発電装置としての活用も期待される。渡邉教授の実験室では、すでにバイオマス廃棄物を用いて1㎥あたり150Wの発電効率を実現しており、今後は小型化や高効率化に向けた技術開発が必要になる。開発が進めば、生ごみや畜産廃棄物の処理と発電などへの利用が可能になる。

世界を見渡しても、いまだ微生物燃料電池が実用化された例はない。「日本では古くから発酵などに微生物が利用されてきました。微生物燃料電池研究の先進国はアメリカですが、私たちの研究が進めば、世界に先駆けて日本独自の微生物燃料電池を生み出すことも不可能ではありません」と渡邉教授は自信を見せる。

次世代の水素エネルギーを創る新たな微生物燃料電池を研究

さらに渡邉教授らの研究チームは、発電菌を応用し、水素をつくる研究を進めている。「発電菌が有機物を分解して発生させる電子を負極で回収し、正極でその電子と水素イオンを反応させて水素ガスを発生させる仕組みを構築しました」と渡邉教授。次世代エネルギーとして燃料電池自動車などへの水素の活用が期待される中、電極の材料や構造に検討を重ね、従来の装置に比べて約10倍の効率で水素を作れる装置の開発に成功している。

渡邉教授の研究室では、発電菌をはじめメタン発酵を行う微生物のゲノム解析を行い、その機能を解明することにも力を注いでいる。メカニズムが明らかになってこそ環境保全やエネルギー生産への応用展開にも新たな可能性が見えてくる。工業展開のベースとなる基礎研究も大学の役割だと考えているからだ。

有用な微生物の探索も継続している。千葉県野田市にある実験用の圃場では、稲の根圏土壌と水中に電極を指し、「田んぼ発電」を行い、未知の電流生成菌を発見しようとしている。「私たちの身近な土壌にも、まだ知られていないユニークな活性を持った微生物が数多くいると考えられています。新しい微生物が見つかる可能性は無限にあります」と渡邉教授。人類が目指す循環型社会の実現に貢献する研究成果に期待したい。

田んぼ発電

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投稿日:2022年01月27日
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