生命とは
生命とはダーウィン進化できるものを指す。一言で言うと、ダーウィン進化(名誉教授コラム「チャールズ・ダーウィンはかく語りき」参照)できれば生命と言って良い。
ダーウィン進化できるものとしては、単細胞生物と、多細胞生物の個体、それに多細胞生物の集団がある。そして、どんな生物も細胞を基盤として成立しているので、生物は細胞でできていると言う言い方もできる(名誉教授コラム「生命の定義:生命は細胞でできている」参照)。
生命の性質
これまでシュレディンガー(E. Schrödinger)やプリゴジン(I. Prigogine) などの有名な物理学者の著作を含め、生命に関する多くの著作がある。これらは、いずれも生命の重要な特徴をとらえており、これらの著作によって生命に対する理解が深まったことは間違いない。
一方で、「生命とは」という表現にとらわれて、これを生命の定義だと勘違いすると、いろいろ問題が出てきてしまう。例えば、増殖すること、境界を持つこと、代謝すること、ダーウィン進化すること、などを基準として生命を定義しようとすると無理が生じる。例えば、雄のロバと雌のウマの交雑種であるラバは不妊で増殖できない。したがってダーウィン進化もしないが、もちろん生物である。これまでに、100近い生命の定義が提案されているが(Popa 2004)、生命の定義に関する専門家の一致は無い(山岸2023)。
例えば、もう20年以上前になるが、Scienceという有名な科学雑誌の編集長が著名な科学者を集めて、生命の定義を議論した。そこでは、様々な定義にはそれぞれ問題があることが指摘された。例えば、生命の定義として「増殖すること」がしばしば基準となる。しかし「ウサギを一匹飼っていても増殖しないではないか」、と会議で指摘された (Koshland 2002)。こうした検討の結果、様々な定義にはそれぞれ問題があり、「生命を定義することはできない」と言う結論になった。そして、生命を定義するのでは無く、七つの「生命の性質」をまとめることになった(Koshland 2002)。
アメリカ航空宇宙局(NASA)も、「生命とは、ダーウィン進化を行いうる、自己維持できる化学システムである (Joyce 1994) 」という生命の定義に関して、「科学者と哲学者は生命の定義を解明できなかったが、私たちが知っている生命の一つの例、つまり地球上の生命の特徴を列挙することはできる(NASA 2025) 」としている。つまり、生命の性質をまとめようとしている。
生命には、Science誌にまとめられた七つの性質や、その他の多くの性質がある(山岸 2023; NASA 2025)。これらは、何れも生命を理解するうえでは重要である。しかし、生命を定義しようとすると、いろいろな問題が出てきてしまう。
生物学の体系から生命を理解する
一方、生命を定義するのではなく、生物学の体系から生命を理解するという考え方が提案されている(Cleland, 2019)。この考えに従えば、生命は細胞でできているということになる(名誉教授コラム「生命の定義:生物は細胞でできている」参照)。
例えば、単細胞生物は増殖してダーウィン進化する。多細胞生物でも、無性生殖できる植物は根や茎、葉から発生して個体となり増殖してダーウィン進化する。有性生殖だけで増殖する多細胞動物の場合には一個体だけでは増殖できないが、オスとメスを含む集団で増殖してダーウィン進化する。つまり、種によって増殖できる最小単位は様々であるが、いずれも最小単位以上であれば、増殖してダーウィン進化できるのでいずれも生命であると考えて良い。
ラバはダーウィン進化できないが、細胞でできた個体である。生物学の知識体系では、「種間に生まれた個体は不妊になる場合がある」と理解される。
一言でいうと、ダーウィン進化できれば生命(生物)といって良い。そして、なにかの定義で判断しようとするとうまくいかない事があるが、生物学の知識体系で生物を理解することができる。生物学の体系では、生物(生命)は細胞でできている(名誉教授コラム「生命の定義:生物は細胞でできている」参照)。
参考文献
Cleland, C. E. (2019) "The quest for a universal theory of life". Cambridge University Press, Cambridge.
Joyce, G. (1994) Foreword, in "Origins of life: The central concepts", Jones and Bartlett Pub., Boston.
Koshland Jr., D. E. (2002) The seven pillars of life. Science 295, 2215-2216.
NASA (2025) About life detection. Last updated September 26, 2025. https://astrobiology.nasa.gov/research/life-detection/about/
Popa, R. (2004) Appendix B, in "Between necessity and probability: Searching for the definition and origin of life". Springer Verlag, Berlin.
プリゴジン, I., スタンジェール, L. (1987) 混沌からの秩序. 伏見康治他訳. みすず書房.
シュレディンガー, E.(1951)生命とは何か. 岡小天・鎮目恭夫訳. 岩波新書.
山岸明彦 (2023) 宇宙での生命の起源,進化,伝播および探査: 第2回 生命の起源と進化. 日本惑星科学会誌 32, 68-122.
図作成に使用した元写真のURL.
https://toyaku-univ.box.com/s/5tkzwqbp07jvrbo7zn9bb7z2c4b42y9k